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手探りな会話


今日も卵の殻が隅の方に落ちているステーション内。
周りをぐるぐる回っていた人が新しい殻を地面に落とすたびに、ある地点へと走る。
一人だったらまだ良いのだろうが、これが休日にもなればすごい人盛りが出来る。(平日でさえ結構にぎわっている。)
あまりにもパキパキと靴の下から小さな音が鳴るので、【孵化作業禁止!】とか、看板を立てるべきではないのかなぁ・・・とか思ってしまうほどだ。
たまに駅員やサブウェイマスターがこの辺りに出現するので、そんな厳しいことは言えないのだろうが・・・。
「それにしても、清掃の方が可哀想だ・・・。」
絶対これは清掃泣かせだと思う。そうしみじみと思っていると、後ろから私を呼ぶ声がした。

「ナマエさん、おはようございます。」
「ああ・・・ジャッジさん、おはようございます。・・・今日も大変そうですね・・・。」
「あはははは・・・でも、ポケモン好きですから。」
サブウェイの周りをぐるぐる回る人たち見て、彼女はそう言ったのだと思う。
軽く笑ってそう言い返すと、彼女も小さく微笑みながら、「私も好きですよ。」と言う、すると僕は大きくドキッとしてしまう。 
何を隠そう、僕はナマエさんの事が好きだ。
そこまで親しいのかと言われれば、いつも挨拶程度で会話は終了。
むしろ今日、これだけナマエさんとの会話が続いていることが珍しいぐらいでして。
なにか、後で悪いことが起きるんじゃないかとか、逆に少し不安になる。
でも、もっと彼女と話をしたいと言う気持ちの方が大きかったらしく、彼女が去らないうちに口をおそるおそる開く。

「でも、ナマエさんがポケモンと一緒に居る所、見たこと無いですよ。」
「作業中は一緒に働いてもらっているんですが・・・ジャッジさんは仕方がないですよ。」
彼女の台詞を聞くに、駅員とか、整備士仲間は見れていると言うことで。
自分だけが知らないと言うのが、少し悔しくなった。
ただ、彼女にはそんなことを知られたくはないので、「へぇ・・・それは残念ですね。」と当たり障り無く言うように振る舞った。

「・・・・・・見ますか?」
ふと、僕の心を知ってか知らずか、そう言った。
「え、良いんですか!?」
「別に、隠しているわけでもないですし。・・・・・・ただ、個体値とか気にしない質なんで、良いかは知りませんが・・・。」
そう言って、鞄の中から出したボールを開けると、中からシャンデラが、ふわりと優雅に現れる。
「この子には、溶接のお手伝いをしてもらっているんです。」
照れくさそうに笑いながら彼女は僕にシャンデラを見せる。・・・・・・・・・あれ。
「個体値、本当に気にしてませんか?」
「あ、はい。周りを走っていた方から頂いた卵を育てたんですけど・・・。」
「ああ・・・・・・・・・・・・・・・。」
そりゃぁ、良いはずだ。
本当に気にしてないんだ・・・と少し苦笑しながら、シャンデラを撫でると、嬉しそうにふわふわ体を揺らした。
それを見ているのは楽しいけど、個体値を調べるためにで良いから僕の所に来てくれないかなぁ・・・。
なんて言うささやかな希望は叶えられそうもないらしい。


手探りコミュニケーション

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