ショート | ナノ
バランス的には丁度良い


「先輩、ナマエ先輩!!」
どこかからそう聞こえた瞬間、鈍い音と揺れる視界。
視界が床しか見えなくなった時に、やっと背中に走った痛みを理解する。そして、きっと床に落ちる。そう確信した。
が、しばらくしても何も起こらない。なので、次に来るであろう痛みに耐えようして閉じていた目をゆっくりと開けた。

「・・・・・・あのですね。」
「先輩、大丈夫ですか?」
「うん。あのね、ヒロカズさん。・・・大丈夫に見えますか?」
彼、もといヒロカズさんにタックルを追突され、吹き飛んで、床にダイブしかけた所を助けられた・・・と言う状況。
断じて殺人とかそう言う類ではない。(その場合は私の相棒達がきっと黙っちゃいない。)
まぁ、ようするに。
「毎度毎度、タックルするのはやめていただきたいんですけど。」
会うたびに突進してくるヒロカズさんと白くていつも笑っている人。
してる方は良いかもしれないけど、一応女性の自分に毎度攻撃するのは勘弁して欲しい。
そう思いながら、HPが黄色ゲージの状態と思われる身体をヒロカズさんの腕から離そうとする。
「ナマエ先輩、すみません。」
いつもなら開放してくれる腕が、今回は離してくれず、少し浮いていた私の身体はまた腕の中に沈む。
「・・・あの、ヒロカズさん。離してくれませんか?」
「すみません、あの、あなたに聞きたいことがあるんですけど。」
「聞きたいこと、ですか?」
そう言って尋ねると、目の前の彼は小さく頷いた。
「清掃員のおばさんから聞いたんですけど。」
「は!?・・・・・・・はぁ。」
どうしていきなり清掃員のおばちゃんの話なんだろう。確かに仲は良いけれども。そう思いながら続きを促す。
「先輩は年上が好み・・・らしいですね。」
「・・・まぁ・・・確かに、そんな話があった時にそんな回答をしたと思います。」
昔の記憶を引っ張り出しながら彼にそう言うと、少し困ったように眉がハの字に変わる。
「年下は眼中にないですか?」
「・・・流石に保育園児や幼稚園児とかは嫌ですよ。」
そう言うと、ヒロカズさんは笑って「そうですか。」と呟いた。
「ヒロカズさん、好みと恋人っていつも一致してると思いますか?」
皆がそうだったら、モテる人とモテない人の格差が今よりも激しいと思うんですが。と言えば、さっきより明るい顔をし始める。
「そうですよね・・・好みとか関係ないですよね!」
・・・それは何とも言えないけれど。
そう心の中で呟きながら、ゆるまった腕から抜け出す。
「ナマエ先輩。」
抜け出して軽く身体を伸ばしていると、後ろから声をかけられる。
なに。と言おうとした瞬間、視界が一面緑に変わった。


大きい私と小さい彼
   

「年下に好きだって言われたらどうしますか?」
「・・・・・・言われたことがないんですけど。」
抱きしめられている。そう理解して上手く働かない頭に、響いてくる私より低い声。
見上げようとするも、頭の上に多分彼の頭がのっているのだろう。頭が重い。

「ナマエさんは小さいですね。」
「私、がたいが良くて小さいと形容されたこと無いんですが。」
「それでも、わたしよりは小さいです。」

嬉しそうにそう言って、また腕の力を強める。
その瞬間、隙間から見えたのは、あの人の姿。

(ちょ・・・おばちゃん!み、見ないでくださいよ!!あと、ヒロカズさんも離れる!)
(あ、本当ですね。どうも。)
(のんびり挨拶してないで、離れてください!!)



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