ショート | ナノ
台風の聞こえない場所で


地上の街では近づいてくるお祝いの為に、カボチャやゴースト達に覆われているだろうに。そう思いながら止まってしまっていた手を動かす。
「クリスマスはアレですけど・・・ハロウィーンは、楽しみなんだよなぁ・・・。」
例えそれが、販売商戦だったとしても。ショーウィンドウに飾られていると思われるのを頭に思い描きながら、小さく溜息を付いた。

「ナマエ。ハッピーハロウィーン!」
「・・・お菓子の代わりに、職場に案内してあげましょうか?」
それに、ハロウィーンはまだまだ先ですよ。と言ってやれば、まぁ、そうなんだけれども。と返事が返ってくる。
「その前に台風が来そうなのだけれども。」
「・・・カズマサさんの言うとおりなんですよねぇ・・・。」
そう呟いてラジオの電源をつけると、男の人の声が小さく響き渡る。
『・・・現在台風は・・・・・・の付近で・・・・・・。』
「・・・電波が、悪いのだろうか?」
「多分・・・悪いんでしょうね。」
ただノイズが走るラジオを聴いていると、どうやら上の電車は止まっているらしい。
地下鉄は環状線だからか、上とは少し違うらしく。未だに走り続けている。(もしかしたら、ダイヤが乱れているかもだけど。)
修理に集中していたため、帰る機会を逃してしまったようだ。
家の近い人だけに仕事をやらせていて良かった・・・そんなことを思いながら、私はラジオを聞き流していた。

「でナマエ、今日はどうするのだろうか?」
「あー・・・考えてなかった。」
家は電車が動かないと帰れないし。空を飛んで帰りたいが、台風の中飛ばせるのは気が引けてしまう。
「うーん・・・駅のホームでも借りて寝ます?」
何で疑問系なの?と言いながら、彼は何かを考えるように軽く俯いてしまう。
「ナマエ。」
「はい。何でしょう?」
「ぼくたちの仮眠室を使ったらどうだろうか。」
「え?・・・・・・え!?」
私の答えなんか無視して、腕を引かれる。
「あの!・・・皆、使うんじゃぁ・・・!!」
「居ないと思うし・・・大丈夫。ぼくはナマエの横にいるから。」
「え、最後の台詞は要らなかった気がしますけど?」
そう突っ込んで見せるも、彼は機嫌が良さそうに口元を上げながらドンドン進んでいく。
「・・・・・・ところでナマエ。」
「え?はい。」
振り向いたカズマサさんは少し困った顔をしていて。少し嫌な予感がしてしまう。
「ここは何処なのだろうか?」
「ちょっと!何も考えずに来てたんですか!?」
結局カズマサさんはカズマサさんだなぁ・・・なんて思ってしまった。


台風の聞こえない場所で。
 

無事に仮眠室まで連れて行くことに成功した私は、ふと、我に返る。
「あ。私、ここで寝ませんからね?」
「・・・・・・え?大丈夫、人は居ないから。」
「いや、だから問題なんじゃないんです・・・か・・・・・・。」
ほら、と言わんばかりにカズマサさんの手によって開けられた扉の向こう側で、枕投げ大会が開催されていた。

(あ、ナマエー!一緒に寝る?)
(クダリ!!ナマエ様をあなたと一緒になど・・・寝かせませんよ!!)
(あー・・・駅員さんが大集合しているので・・・私はやっぱり駅のホームで・・・。)
(あかんあかん!女の子が1人でそんなところに寝たらあかんって!)
(いや、ホームが良いです。ホームで寝かせてください。それか安全そうな駅長室。)
(ダメダメダメ!!!ナマエはボクと一緒に寝るの!!)
(だから、いけませんよクダリ!!)
(じゃぁぼくの隣に寝れば・・・。)

帰りたい。そう思ったけれども、未だにラジオはノイズ混じりに台風のコトを話していた。

 

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