ショート | ナノ
幸せは歩いてこない


「おっと、その後ろ姿はナマエ!」
帰宅途中にそう話しかけられ、私は呼ばれた方へ身体を向ける。
「あれ、珍しいですね。こんな所で会うなんて。」
制服を着ているところをみると、非番ではないらしい。大方、落とし物を拾ってきた帰り・・・と言ったところか。
落とし物を届けに行ったり、バトルサブウェイで偶々会ったするが、帰宅途中に会う事はなかった。
「本当だね。今から帰るのかな?」
「あ、はい。」
なら、途中まで送っていくよ。と笑って言われ、私は頷くしかなかった。

他愛のない会話をしていると、小さな民家が見えてくる。
「今回こっちに来たのって・・・やっぱり落とし物関係ですよね。」
「うん、そうなんだよねー。真剣勝負をしてくれるのは良いんだけど、夢中になって落とし物が・・・。」 
困った事だよ、とあまり困ってなさそうにへらりと笑うカナワさんに、「着きましたよ?」と呟いた。
「ああ、うんナマエ。ありがとう!お陰で楽しかったよ!!」
いいえ、私も楽しかったです。と小さく呟いて、軽く自己嫌悪。
話していて楽しかった。それをどうもさっきの一言では言い切れていない気がする。
今に始まった事じゃないけど、可愛く無いなぁ・・・と自分に対して心の中で呟いて帰ろうとした、ら。
「ねぇ、ナマエ。これから暇?」
「・・・帰るだけなので、暇と言えば暇ですよ?」
そう可愛くない返事をすると、カナワさんはまた笑って、「じゃぁ、ちょっと待ってて!」と慌てて民家へ走り出した。

待っていると、彼は走って来た。別に5分ぐらいしか掛かっていないから、そこまで走らなくても・・・と思ってしまう。
「ごめんよ!落とし物が多くて時間掛かっちゃった。」
「別に良いですよ。」
さっきまで持っていた段ボール箱が無くなっているのを見て、アレに落とし物が入っていたのだろう。
「落とし物は落としてくし、卵の殻もステーションに大量に落としていくし・・・。」
「あはは、困った事だよね。」
別に、カナワさん達と清掃員の方が困るだけだからなぁ・・・とか酷いことを考えてしまう。
「あ、で。そうそう、ナマエにこれを貰って欲しくって。」
そう言って手に掴まされる何かの袋。
「え、でも・・・。」
多分袋の中身は道具だ。引き取り手が無いにせよ、こう言うのは他の人に。と言おうとする。
「いいの、いいの。遠慮しないで!」
「え、いや・・・落とし物を貰っても、私トレーナーじゃ・・・「ナマエ。まぁ、そういわずにさ!」
「ぼくが持っているよりナマエが使った方が、道具も嬉しいだろうから!」
やっぱり道具なんだ、と思いながら手に押し込められた袋を覗くと、予想もしていなかった『道具』が入っていた。


幸せは歩いてこない


「買っちゃったのよ。ナマエに似合うと思って。」
そう言うと突き返せなくなってしまい、もう一度袋の中をちらりと見る。
そうすると、返事をするかのように髪留めが揺れ、髪留めに付いている金具がしゃらしゃら音を奏でる。
「あの、カナワさん・・・。」
「何?」
あの、その・・・と少しごにょごにょ言った後、「あ、ありがとうございます・・・。」と言えば。
「どーいたしまして。」といつものようにへらりと笑った。

(そうそう、気が向いたらまた会いに来てくれよ!待ってるからさ。)
(良いですけど・・・何処でですか。)
(あ・・・うーん・・・・・・じゃぁ、民家で!)
楽しみが、ふたつ、増えました。



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