ショート | ナノ
帰る理由


ごりごり。

いつもにぎやかな前田家のある部屋で、何かをすりつぶす音が聞こえる。その音のする方へと、大きな足音で向かう人がいた。スパンと障子が開く音がしたかと思うと、その人はいきなり入って、

「よう、名前!」 
といった。その人は夏の太陽のように笑っていた。

「あぁ、やぁ。慶次。」
そう言って俺の方を見た名前。 俺は、ふと名前が持っていた草に眼がいった。

「名前、またお前・・・何やっているんだ?」
俺が聞くと、名前はさらりと答える。俺が来る前と同じ事をし始めた。
「え?みんなが怪我したとき用の薬作り。すぐに無くなるから。」
多めに作らないとさ、困るでしょ? そう言って、にこりと笑う名前。そして、俺の顔を見るとクスクスと笑い出す。

「そんなにふてくされなくても良いじゃん?」
「そんな顔しているか?」
「うん。“凄くつまらない。”って顔しているよ。」
そう言って、俺の顔をプニプニとつつく。そうしていたら、ただ一言。(何か、頬の感覚が無くなってきた気がする。) 

「疲れたな。・・・お茶にしようか、慶次。」
「!?・・・あぁ!!」
そう俺が元気よく返事をすると、名前は腰を上げる。
「何処へ行くんだ?」
そう言って、名前の裾を掴んでいる俺を見て、一瞬驚いた後。
「お茶を持ってくるだけだって。」
やんわりと手を退けた。(手を退けた名前の手は、俺の手より柔らかかった。) そして、台所へと走って行った。

私は、何故か急いでいました。 急いでいる理由は、慶次のためなんですけど。寂しそうだったから、急いで帰ってやろうと思っているのだけれど。
「行きはいいけれど。帰りがな・・・。」
湯飲みとかがあるのだから、余り走れない。忍だったら、もう少し走れる気がする。(迷彩の人が羨ましく思えた。) そんなことを思っていたら、私の部屋に着いた。

「結構早かった・・・・かな?」
そう私は呟いて、縁側へ座る。
「ほら、慶次もきなよ。用意したんだから。」
座布団もあるよ!?と言って、それをポンポンと叩く。 
「和菓子もあるかい?」
そう言って、縁側へ来た慶次。慶次からは、太陽(ある人曰く日輪)の匂いがした。 何というか・・・。

「何とも言えない焦げ臭「は!?」・・・太陽の匂いって言いたいの。」
変なこと言って御免なさいね。そう言って、慶次の頭を触る。だって、気の利く言葉が出てこなかったんだもの。

「・・・ま、名前らしいか。」
そうにこやかに笑う慶次。 それを見て、私は思いだした。(言いたいことがあったのだ。)
「慶次。」
「ん?なんだい名前。」
「何で帰ってくるの?」

「・・・は!?此処は俺の家「そう言う意味じゃなくて。」
そう突っ込む名前。(じゃぁ、どういう意味なんだよ。)
「いや。『昔は怪我しても帰ってこなかったから、心配したものだ。』って。」 
「それはもしかして・・・利?」
そんな質問を軽く無視して、は話を続けた。
「でもさ。私はそんなこと見たこと無いからさ。何でかなぁ〜?って。」
「名前、日本語大丈夫?」
「ん、何で?」
いろんなものが抜けている。そう言いたかったが、やめておいた。これが名前の良いところだしな?

「で、なんでちょくちょく帰ってくるようになったのかな?」
首を傾げながら聞いてくる名前に、俺は苦笑いをする。
「理由を言わなければいけないのかい?」
「当たり前じゃないか。」
そう言ってペチペチ足を叩く。
(こう言うときだけ子供なんだな。)
名前のそんな行動に、俺はニヤリと笑う。
 
「よいしょっと。」
「うわぁ!?」
俺は名前を持ち上げて、膝の上に載せて抱きしめる。
「俺的には、これで解って欲しいんだけどな?」
そう言って笑うと、意味が分かったのか顔を真っ赤にさせている。 


「名前が居なければ帰ってこないって。」
 

ちなみに、名前だけじゃなく俺も真っ赤だったことは誰も知らない。
その時間はいつもよりゆっくり感じられた。

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