ショート | ナノ
滝の音は、絶えて久しくなりぬれど


俺は、任務を終えた後、ゆっくりと帰っていた。そして、ふと下を見ると、最近よく行く大きな滝が。

「また、寄ってみようかな?」
そう自分に言い聞かせて、滝へと向かう。 君がいると言うことを信じて。
 

そうして、俺は地面に降り立つ。
「しっかし、いつ見てもみごとなものだねぇー。」
大きな岩に叩きつけられている、水の音が。そして、川となって流れていく音も。

「んー。い「いい音でしょう?」・・・俺様忍び失格だなぁ。」 
いきなり後ろから声がする。気配からして、敵ではない。
「また君?」
呆れるように言っていても、自分の口元がにやけている。
「『また君?』って言うなら、何で来ているのかな?佐助?」
そう言って笑っている君。俺の名前は教えたというのに、君は教えてくれない。 

「いい加減教えてくれないかい?君の名前。」
「知っているんじゃぁないの?」
にやにや笑って聞き返す君。いつもこうやって、名前を聞かれないようにしている。

君と会ったのは、3週間ぐらいの前のこと。この滝で俺らはであったのだ。それ以来、何かと理由を付けてここに来ている。しかし、未だ君のことを何一つ知らない。そして、少しの間此処に来れなくなる。そう言うと、君はこう言った。

「あ、奇遇だね。私もなんだよ。1カ月ぐらい?」
うん1カ月ぐらい。そう答えると、やっぱりねー。と答える。(君はどんな仕事をしているの?)そんな他愛もない話を、話していると。いつの間にか、周りは闇に包まれていた。

もうそろそろ帰らなければならない。俺は君にこう言った。
「じゃぁ、俺帰るから。」
「あ、待って佐助。」 
そうすると、暗闇の中、君は俺を引き留める。そして、 
「私の名前さ。名前って言うんだ。」 

最後になりそうだから言っておくけど。と、その後名前は呟いた。(その時、胸が締め付けられた気がする。)
「名前・・・ね。良い名前じゃない。」
名前だけで、こんなにも心は温かくなるものだと思った。覚えておくよとだけ呟いて、俺は城へ帰った。

次の日、実は戦へ出る前の日だったりする。
だけど、何となく会いたくなったので、滝の所へ行く。(忍びとして、失格だね。)
「名前ー。・・・いない?」
滝の周りを探してみるも、いない。
「名前、名前?」

名前を呼んでみても、声が空しく響いただけ。
「いないのか・・・。」
そう呟いて、俺は帰った。

とぼとぼ廊下を歩いていると、誰かにぶつかった。
「・・・っつ。」
「大丈夫・・・・って、え?」 

痛みに耐える声は、どこかで聞いたことのある声で。
「・・・名前?」
よく見ると、さっき居なかった名前だった。
「あれ、此処の人間だったの?」
「うん。だから、聞いてたんじゃない。“覚えていない?”って。」

イヤ、わかるわけがないでしょ。とか呟いてみる。そして、もうすぐ戦があるから抜け出せるわけがないな。とか思ったりする。(俺も、君も。)

「でさ、佐助。」そう言って、俺の耳を引っ張る。
「私は佐助のことが大好き。」と頬を染めた彼女は言った。
「え・・・。」
「返事、聞かせてもらえると嬉しいんだけれど。」

いつも顔で。(しかし、頬が紅い)いつもの口調で言った。(声が上擦っていたけれど。)そんな名前をみて、俺は声を出した。返事なんて、もう決まっていた。滝にいなかったときにわかったのだ。俺には名前が居ないと駄目なんだ。

「俺は・・・名前のことが「あ、やっぱり駄目。」
そう言って、名前俺の口を塞ぐ。(返事を言わせないのかよ!!)
そして、俺にこう言った。
「帰ってきたら、佐助の方から言って?」


名こそ流れてなほ聞こえけれ


音が絶えてしまった言葉では、あまりにも悲しすぎるから



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