ショート | ナノ
一分間の気持ち


6時間目が終わり、STが始まる時間になった。部活とかに燃える人達は、鞄と一緒に部活の用具を片手に、そわそわしている。(私も入ってるが、そこまでではないから、偉いと思う。) そんな人の気持ちに答える(本当は答えていないけれど。)ために、私は声を出した。

 「これからSTを始めますよー?」
 こうしていつものように、疑問文から始まるSTが始まる。


淡々と、先生が日直のために作ったSTの進行カードを見ながら進めていく。はっきり言うと、もう覚えてしまったのだが。
(名前さんは、人と目を合わせるのが苦手なんだよなぁ・・・。)
そう思いながら、カードを口元の方まで持っていく。
基本的に、目を合わせるのは苦手だ。 目を見ているようで、実際は後ろの風景とかを見ていることが多い。むしろ人があまり好きではなかったりする。(親友とかは別なのだが。)他人とかに会うと、本当に無口になってしまう。直そうとしても、直らないからたちが悪いとか思ってしまう。そんなことを考えながら進行していると、このSTの中で一番好きな内容にたどり着いた。それを気付かれないように、いつものように話す。 
「・・・黙想をしまーす。1分間今日の反省をしてください。」
そう言うと、みんな渋々だが視線を下に向ける。(もちろん先生もだ。)それを確認してから、私は見られていないからこそ、笑いながらこう言った。

「よーい、始め!」

そう言うと、今まで騒がしかった教室が、気味が悪いくらい静かになる。この静かな空間、そして何より、誰も自分を見ていないことが、この黙想の好きなところだったりする。 1分間だが、その短い時間でもこの静かな時間は、結構学校生活を送る私的には、必要だったりする。

「ふぅ。」
周りに気付かれないように、のんびりと息を吐く。 吐きながら、周りを見る。すると。
「・・・・!!」

黙想なのに、こちらをじっと見つめる人が一人いた。 しかも、『よう、名前。』と言いそうなノリで、そいつは手をあげる。私は、そんな奴をどうすればいいのかわからなかったので、何となく窓の外を見ることにした。(要はそっぽを向いた。)そいつの名前は、長曽我部元親。名前も人柄というか、その性格もインパクトがありすぎているので、名前だけは覚えた。だが、同じクラスになったのは初めて。私は話しかけられない限り、知らない人とは極力話さない。向こうは、こんな真面目(だと思われているらしい。・・・ゲームとか好きなんだけどな。)な人間には話しかけない。前話しかけられたときは、からかわれた。(1カ月ぐらい前だったか・・・?)そんな、感じなのだ。 そんな男の方に、もう一度視線を向ける。(あぁ、まだこっちを見ている。)実は、こいつとはあまり関わらない理由はもう一つあるのだが・・・。 ふと、自分の手元に紙とシャーペンが転がっていた。(もちろん私のだ。)どうせ、先生から貰った紙だ。そう思い、私はなるべく音を立てないようにした後、元親に見せる。(体が妙に緊張する。)

『下、向きなよ。』
それを見たとたん、元親は、すかさず書いて私に見せた。(しかし、字が可愛いな・・・。)
『名前、なんで?』
『もく想。』

自分の名前をあいつが覚えていることに驚いて、黙想の黙が書けなかった。(べつに、思い浮かばなかったわけではない・・・と思う。)そんなことを気にせず(気にしろ。)元親は、紙にでかく書いたものを私に見せる。不敵な笑みを添えて。

『名前。おまえ、好きな奴いるか?』

って・・・なんだいきなり。あれか?好きな人を聞いて、それを周りに言いふらすあれか!? そう思いながら、書き始め、元親に見せる。

『もく想の時間がもう少しだからムリ、書けない!』 
『口ぱくなら、そこまで時間がかからないだろう?つーか、名前はいるのか。』 

そんな文章を見せられて、私は戸惑う。(やべぇ、ばれた。)
いや、確かにそうなんですけど。いやいやいや。(心臓がばくばくする。)
名前さんは、『好きな人?いますよ。いま、筆記で語らっている君ですよ!!』とは言えない。(恥ずかしい。)
というか、見られていたらそれだけでも困る。(茶化されるのはごめんだ。) 
だが、後で聞かれるのも困る。なので、私は意を決して、こう言った。(口ぱくだけど。)

 き み。

向こうは、まさか2文字だとは思わなかったのか、驚いた顔をしている。(もしくは、さっきのがわかったのか。)
そんな顔を見ながら、私は長かったような、短かったような1分間に終止符を打った。

 「やめ。・・・顔を上げてください。」
こうして、妙に逃げ出したくなるような黙想をどうにか終えた。どうか、彼がさっきの言葉を受け取っていませんように。そう願いながら、STを終わらせた。(今の関係を崩したくはない。・・・今のままでも少し、遠すぎるから。)

その後、学級日誌を書いていると、いきなり影が出来た。その影に、書きながら話しかける。
「あぁ、ごめん。もうそろそろ終わるから「そうか。」・・・元親!?」
目の前にいたのは。先生でもなく、親友とかでもなく。
さっきの筆記大会(?)をしていた長曽我部元親だった。元親はニヤリと笑うと、前の席に腰を掛ける。そして、こっちを覗き込むようにして話しかける。

 「・・・で名前。さっきなんて言ったんだ?」
あぁ、やっぱり。それを聞いて、胸をドキドキさせながらも、ほっとした自分がいた。(残念にしている自分もいたが。)
「もう。何も、話さないから。」
本当なら、叫びながら走り去りたいが。学級日誌を書いているから、走り去れない。(無かったとしても、多分やらないが。)
元親に対して冷たくしているのは嫌だが、振られるのに告白するのも馬鹿げている。そう言って、学級日誌を先生の机に置く。そして、ここから出たくて、荷物を持って走ろうとした。だが、荷物をいつの間にか取られていて、出たくても出られない。(神様、ひどすぎやしません?)

「ちょっと、返してよ。」
「名前が言わない限り、俺は荷物を返さない。」

そう言って元親は、私の荷物をもっとしっかり腕の中に入れてしまう。(なんでそこまで、聞きたがるのか訳が分からない。)

「なんで、そこまで聞きたがるの!?」 
そう言うと、元親は少し怒った声で言った。
「それなら、なんで俺の目を見て話さない!?嫌いなら、嫌いと言えばいいじゃねぇか!」
「え・・・元親が私のことを嫌いなんじゃないの?」
「ばっか、俺は名前のことが好きだ!」
そこまで言うと、2人とも顔を赤くして、うつむいてしまった。


 短い時間だからこそ、伝わらないものだってある


「もう一度言う。俺は、名前のことが好きだ。」 
真剣に話す元親の瞳には、私しか映っていなかった。
私は、元親をまっすぐ見ながら言葉を紡いだ。



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