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嘘吐きな太陽


いつも静かに黙っていた海が揺れて、無駄に五月蝿い男がやってきた。
「元就ー!遊びに来たぜー、これ土産な?」
「毎度毎度、良くも飽きずにやってくる事よ、あいにく名前は出払っておるぞ。」
「本気かよ!わざわざ来たってのによー。」
「わかったならすぐに帰るがよい。どちらにしろ名前には会わせぬ、馬鹿親め。」
妹にはとことん甘い元就のことだ、簡単に元親へは会わせてくれないのは毎度のことなのだが。

「いないってのは本当なのかよー、元就ー。」
「ええぃ、何度も言わせるな!城下にでも行っておるのだろうが、そこまで知らぬわ!」
少し切れ始めた元就に気にせず、出された茶を元親は啜る。
「わかった、じゃぁ、 が帰ってくるまで待つ。」
そう言いきった元親に元就は明らかに嫌そうな顔で返す。

そうしながら数時間経った頃、襖を開けて固まる名前の姿があった。
「ちょ・・・予想はしてたけど、なんで元親居るのよ!」
暢気に元親が「よう!」と挨拶する。それを気にもとめずに 名前は兄の元就へ近づく。

「おーい、 、俺の所には来ないのかよ!」
「だって、また“俺の船に乗れ”って言うんでしょう?嫌よ、海上は熱いもの。」
そう が言い張ると、元就が勝ち誇ったかのようにフン、と笑った。


「・・・だそうだぞ、元親。残念だったな。」
名前は悔しそうな元親を後目に兄の手の中にこっそりと袋を置いた。 兄に今日買ってくるようにと言われた大豆が袋には入っているのだ。そして、予定通り元親は来た。全ては手の内だ。 帰る機会は与えたはずだ。帰らなかった元親が悪い。手の感触で中身を確認した元就は名前へと手を伸ばしていた元親に向けて豆を投げた。
『数打てば当たる』全くその通りだ。手に4粒ほど握られた豆のいくつかは元親に当たる。
その瞬間バシッといい音がして、同時に元親の悲鳴が上がった。

「・・・って、痛ぇじゃねぇか!」
元親は驚きと痛みで半泣き状態だ。
「そんな服を着ているお前が悪い。」
冷静にそう述べる元就の顔が激しく黒い。
「すごい理由が理不尽なんですけど・・・。」
確かに今日はいつも通りの露出の多い格好だったのが災いした、と元親が考えている間も元就は投げ続ける。
「よし、 、お前も投げるがよい。」
その言葉に元親は慌ててしまう。どうせ兄と一緒に投げて来るに違いないからだ。元就が名前に豆を渡す瞬間を狙って横から を攫って逃げる。それを見た元就が背後で声を荒げているのが聞こえたが、この際気にしていられない。


「愚劣な・・・貴様、それでも男か!!」
元就の城から大急ぎで退出すると港に泊めていた愛船に乗り込む。 名前は肩に担がれながらも、降ろせの一点張りで困ってしまう。姫が機嫌を損ねるのは初めからわかっていたのだが、こうでもしないと彼女は俺にはついてこない。 船の甲板に彼女を降ろすと少なからず、大人しくなる。それには船が丘から離れたことにもあったのかもしれない。

「船も、なかなか良いもんだろ?」
「やっぱり海は熱いわー。」
だんだんと言っても近い島同士なのだが離れていく中国をずっと私は見ていた。
「あーあ、結局は元親の言いなりかー。」

兄はあまり真剣に を追っては来なかった。 元親への気持ちを兄が気付いていたのか、初めから元親にくれてやろうとでも思っていたのか、妹の名前でさえ、解らなかったが。一人呟くと元親が後ろから抱きしめてくる。

「そんな悲しいこと言ってくれるなよ、凹むだろうが。」
今のところはまだ誤解させておこう。昔からずっと彼の船に乗りたいなんて思っていたなんて、今更言えない。それともずっと前から知っていたのだろうか。私が今も気付いていないだけで。何も聞けないまま、ずっと海を眺めていた。


嘘吐きな太陽


矛盾する言葉でも貴方は解ってくれるから


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