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溶けてしまいそう


山で迷ってしまい、途方にくれていると、同じ年ぐらいの子が目の前に現れて。
「この山は危ないって、親に聞かなかったの?」
と、あきれながら近づいてきて。 
「ほら、もう遅いから。家まで送ってあげるよ。」 
そう言って、手を差し伸べる君のことが家に帰っても忘れられない。


朝、起きて思ったことは昨日の君の事。
あれは本当だったのか、今でもわからないけれど。
「手当て・・・してくれたんだっけ?」 
昨日あった子が、帰り際に手当てをしてくれたものだ。
『これでも薬師だから。傷を見たら治したくなるんだよ。』 
そう言って、手当てをしてくれたのを思い出す。
「また・・・会えるのかな。」
今日もあの山に登ろうかと考えていたら、玄関で自分を呼ぶ声がする。
あの声は父上だ。
「何かあったのかな?」
そう言って、玄関のほうへと歩いていった。
意外な人が待っているとは知らずに。

父上の方へ行ってみると、見慣れない人影がいた。 
「おぉ、きたか。今日はな、お前に友達を連れて来たんだ。」
そう言って笑っている父上の隣には、昨日のあの人がいた。
「・・・・父上!!」
「ん?あぁ、ちょっと冷たいかも知れないが、結構いいやつだかr「き・・・着替えてきます!!!」
こんな格好は見られたくない。そう思い私は、柄にも無く叫んで走って自分の部屋へと走った。

真っ赤な顔をしながら、走り去った子を見ながら私に尋ねる。
「ん・・・。人見知りは激しかったが、あんなにだったかの。名前?」
「ついさっき来た私に、そんなことを聞かないでください。」
昨日はそうでもなかったように思えたけれどなぁ・・・とか思いながらつぶやいた。
「でも、可愛いじゃないですか。・・・羨ましいくらいに。」
やっぱり女の子はああじゃ無いと。と言うと、驚いた顔でこう言われた。
 
「名前・・・あいつは元親って言ってな。れっきとした男だ。」
「え。」
「今16歳なんだが、男友達がいなくてな。男友達がいれば稽古も出来ると思って、お前を呼んだんだが・・・。」
 
そう聞いていると、不思議な点が出てくる。もちろん重大なことだ。
「あの・・・私は今14歳で女なんですけど。」
「え!?」
どうやら、私が男だと思いここに連れて来られたらしい。(この様子だと、年も勘違いされてそうだな。) その事を聞いて、どうしようか悩んでいるのを見て、私はこう言った。
「・・・武道も一応出来ますよ。」
「本当か!!・・・名前、お前でよかった。」
なんか、いきなり感謝されちゃったんですけど。・・・どうすればいいんだろう。(仮にも城主なのに。)ふと、気がついた。・・・着替えるにしては遅くないか? そう思っていると、ぽんと肩をたたかれる。

「まぁ名前。わしは仕事があるのでな。ここで元親を待っててくれ。」
そう言われ、私は玄関で待つことになった。(普通、部屋とかに通さないのかなぁ・・・。とか思ったり。)

どうして父上は、あの子が来ることを教えてくれなかったのだろう。教えてくれていたのならば、ちゃんと着物だって用意しておいたのに。
「これでもない、あれでもない・・・。」
着替えを手伝ってくれる人が、ニコニコしながらこっちを見つめている。
「探しているのは、これですか?」
そう言って渡してくれたのは、お気に入りの桃色の着物とお花の髪飾り。私が喜ぶと、その着物を着せてくれた。(あの人とつりあう人になりたい、と思っちゃいけないのかな?)
「はい、終わりましたよ。」
そう言われたので、私はあの人の元へと向かった。(早く会いたい!)

玄関へ行くと父上がいなくて、あの人しかいなかった。(どうせ父上のことだから、仕事をしにいったんだろうな。) 
「ん、あぁ。遅かったね。あまりにも遅いから、私のことが嫌いなのかと思った。」
「そ・・・そんなこと無い!」
そう言って反論すると、あの人は笑ってこっちにやって来る。
「まぁ、良いけどさ。・・・あれ、前髪切ったの?」
「え?」
いきなり前髪の事を言われ、びっくりする。(そこまで見ていたとは、思わなかった。) 
ついさっき、前髪を切ったのは本当だ。もしかしたら、思い切って切り過ぎちゃったのかもしれない。
「そんなに変ですか・・・?」
少し目が熱くなるのを感じながら、私が聞くと。
「いや、昨日より可愛くなったなぁ・・・と思って。」
そう言って笑う、この人の目さえ見れない。(嗚呼、溶けてしまいそう。)好きなんだろうけれど、好きだなんて絶対言えない。そんな私の想いを知らないけれど、貴方は嬉しい話をしてくれた。

「私は名前って言って、ここの城の一角に住まわせてもらうことになったから。・・・よろしく。」
名前。私はその名前を、心の中でつぶやいた。(嬉しすぎて、呼吸の仕方も忘れてしまいそう。) 
「・・・手。」
そう言って、私のほうに手を出す名前。不思議そうに見ていると、手をつかまれてこう言った。
「城の中、案内してくれると嬉しいんだけど・・・。」
「!!・・・うん!」


君のことが好きなの 


案内しているときに、私は名前に聞いてみた。
「ねぇ名前、今度はいつ会える?」
「・・・・・・さぁ。私は大抵暇だよ。」

それって名前。『いつでも来て良い』ってとって良いんだよね?


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