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忘れじの行末まではかたければ


あるお昼頃、突拍子もなく、小十郎が私に向かっていった。
「名前・・・お前のことは絶対忘れない。」
そう言った。私はいきなり何を言うのかと、少し驚いたけれど。
「そうでしょうかね。」
私はそう呟いて小十郎に向かって、にこりと笑った。 
そう言った私に対して、貴方は凄く不機嫌でしたけれど。


「人の心は変わりやすいものですから。」
そう言う名前。俺はそう言う名前に多少怒りを感じたから。
「・・・膝かせ。」
「膝・・・ですか。」
そう言って、俺は名前の膝を枕代わりにして寝ころぶ。 
「恥ずかしく無いんですか?」
そう俺に聞きながら、名前は頭をなぜる。    
「さっきのことなんだが・・・。」
「あぁ。いきなり言うから何事かと思いましたよ。」
そう言って、のんびりと思い出す名前に俺はこう言う。
「お前を思っているこの心は、ずっと変わりはしないさ。」
「・・・それ、政宗様にも実は言っているんじゃないんですか?」
「名前・・・俺を何だと思っているんだ?」
まともな返事を期待していた、俺が馬鹿だった。むしろ、何でそこで政宗様の名前がでるのか・・・。
「冗談ですって。」
でも、戦になったらそう言うことは言えませんから。と、名前は誰ともなく言った。

最近は平和だ。 しかし、今は戦国。いずれ戦があり、名前と離れることになるのだろう。 『必ず帰って来る』というのだが、その言葉は名前にとっても俺にとっても、あまりにも心細い。
「遠い先のことはあてに・・・・頼みにならないから。」
「名前・・・。」
俺の心の内を知ってか知らずか、そう呟いた。(本当にすまない。) 
「小十郎が戦に行った後、本当に心配でならない。」
そう言う名前の手は、着物の袖を固く握りしめていた。それを見て俺は、あぁ、やはりと、自分では感じれない気持ちを考えていた。 
「だから。」
悲しそうに。(お願いだから、) 
「『今日を限りとして、死ぬことが出来たらどれだけ良い事か』と、思ってしまった自分が居ました。」
顔を歪ませながら、そう言った。(そんな泣きそうな、悲しい顔をしないで。)
それを下から見ていた俺は、名前を抱きしめた。(いつもの顔に戻って欲しい。) 
 
「小十郎、痛いって。」
そう言う名前をもっと力強く抱きしめた。
(どこかに行ってしまいそうだから。)
「・・・そんなこと、もう言うんじゃねぇ。」
「わかってますって、私は、悲劇のヒロインにはなりたくないんで。」
「ひろ・・・・・政宗様が言っていたのか?(むしろ、あの人しかあり得ない。)」
さぁ?と笑いながら、首を傾げる。(絶対政宗様だ。)
「貴方が死んでも、私はしぶとく生きますよ。」
そう言い放った名前は、とても強く。そして、とても儚かった。
  
日が暮れても、俺たちはその場を離れなかった。他愛もない話をするのでもなく、ただ、夕日が沈むのを見ていた。
「なぁ、名前。」 
「どうかしました?」
「ずっと笑っていてくれよ?」
そう言うと、名前は笑い出した。
「それは、小十郎が居るからね。」 
居なかったら、笑っていないかもよ?と、冗談のように言う。 
「あ、そうだ。」
ポムリと、手を叩いた後。名前は俺の方へ近づいて着て、こう言いながら笑った。
「私がずぅっと笑えられるように、小十郎が居てくれれば良いんだよ。」
「・・・そう言うものなのか?」
「そうそう。」
小十郎と居ると、面白いから。
そう言う名前は膝に乗って、重い?と聞いてくる。
「・・・あぁ。重いな。」

「それは言ってはいけないんだよ!?」
そう膝に乗りながら、声を荒げる名前。確かに。名前には俺が面白いように。俺には名前が面白い、と感じる。(性格とか、その他諸々。)
「ねぇ、小十郎。」
そう、はにかみながら名前は俺の名前を呼んだ。 
「ん、何だ?」
「あのさ。」
そう言って、俺の真正面に顔が来るような体制にして言った。
「ずーっと一緒にいようね。小十郎。」
それに俺は、「あぁ。」と、笑って答えた。


今日を限りの命ともがな。
 
  願わくば、ずっと君の傍で。



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