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遅くなった願い


私は米沢城で、のんびりと空を見ていた。(最近戦とかで、のんびり出来なかったから。)  そんなのんびりした私の上から声がする。この声からすると政宗かな。 

「名前、今日って何日だっけ?」
「えー?今日は7月14か・・・。」
・・・7月14日?ってことは・・・。

「うわ・・・忘れてた!!」
そう言うと、政宗が止めるのも聞かず、私は走り出した。
 

「っ・・・小十郎さん!!」
そう叫びながらやって来たのは名前だった。(息が荒いし、赤い顔をしている。・・・走ってきたのか。)
「名前。そんなに慌てて・・・どうかしたのか?」 
名前がドジなのは知っていたが、ここまで焦っているのを見たのは初めてだったから、少し驚く。
「・・・すごい、たぃ・・・大変な事を、忘れて、たんですよ。」
呼吸を落ち着かせながら、大変なことを忘れていたと言う名前。俺はそんなことあったか考えながら、名前に聞く。
「・・・なにを忘れてたんだ?」

「七夕!七夕があるの、忘れてましたっ!!」
 
「・・・は?」
こいつがここに来たのは、1年くらい前だろうか。短い間だが、結構名前の事を解っていたつもりなのだが・・・。
「おまえ、大事な事って七夕かよ。」
たまに、予想もしなかった事を起こすから、今回も腹を括っていたのだが。 ・・・少し、呆れてしまったことは言うまでもない。

「なんですか、その呆れた顔は!」 
「いや・・・そんなことを言われると思わなくてな・・・。」
そう言って、笑われる。(それが妙に決まっているから、腹が立つ。)
「・・・子供っぽいって、言いたいんでしょうが。」
「そんなことは言ってねぇだろ。」
「小十郎さん。・・・笑うのを堪えながら言っても、説得力無いですから。」
私が小十郎さんを睨んでも、それは笑える材料にしかならなかったらしい。
「くくくく・・・。」 
「・・・・。」 
もういいや。他の人に頼もう。小十郎さんには悪い(?)が、他の人なら手伝ってくれそうだと、自分は考える。
「善は急げっと・・・・。」
そう呟きながら、笑っている小十郎さんからこっそりと逃げる。
「オイ。」 
なんか気付かれてしまって、腕を掴まれる。
「うわわわわわわわ・・・・な、なんでしょう?」
「笹、用意するんだろ?」
「うぇ?」
小十郎さんの言葉を聞いて、逃げようとしていたのを止める。
「用意・・・してくれるんですか?」 
「お前、俺は一言も用意しねぇとは言っていないぞ。」
それはそうなんですけれど。(あれだけ笑っていたから、用意なんてしてくれないかと思ってた。)
「ほれ。」
「?」
差し伸べられた手を、不思議に見つめていると、小十郎さんはこう言った。
「なんだ名前、笹は自分で決めないのか?」
あぁ、そう言うことか。と自分の頭の中で理解をすると、私は迷うことなくその手を握る。 今夜は七夕だ!(一週間遅れだけど。)

名前と笹を取りに行った後、俺は政宗様の所へと行くことになった。七夕をやることを言わなかったらしい。順番が逆だろう・・・とか、思ったりするが。まぁ、名前だから仕方がない。とか思ってしまったり。どうやら、名前には少々甘い自分が居るようだ。

「・・・まぁ、あの方はそう言う‘いべんと’がお好きだからな・・・。」
別に反対はしないだろう。(逆に、なんで言わなかったのか怒る気がする。)
しかし、七夕か・・・。 ふと、足を止めて外を見つめる。
「最近、戦続きだったからな。」
七夕なんて、考えたこともなかったな。

「早く、平和な世になれば・・・。」
そう、早く平和な世になれば。今みたいに笑って、笹を立てている名前の様に誰もが・・・・!?
「あいつ、俺が帰ってくるまで準備しないとか言ってたくせに!!」
少し苛立ちながら、政宗様の元へと急ぐ。(自分で言ったことに、責任をもってくれ。名前!)

小十郎さんが、ちょっと怒りながら帰ってきた時には、ちょうど良いぐらいに暗くなっていた。
「ちょうど良いときに来ましたねー♪」
「・・・『来ましたねー♪』じゃねぇだろ。名前、自分が言ったこと覚えてるか!?」 
「大丈夫です!まだぼけてませんから!」
にこやかに笑いながら、小十郎さんに青色の短冊を渡す。
「お願い、書かないと。」
「はぁ・・・まぁいいか。そう言えば、後で政宗様達も来るそうだ。」
「え、宴会でもやるの?・・・もしかして。」 
「あぁ、そのもしかしてだ。」
別に楽しいから良いんだけれど。(明日が大変なんだよなぁ・・・。)
そう思いながら、自分も短冊に願い事を書いて吊す。
「名前、お前願い事多くないか?」
「一つでも多く叶った方が良いじゃないですか。・・・むしろ、小十郎さんは何を書いたんですか?」
「・・・【政宗様が、天下を取りますように。】」 
「うーん、現実主義だなぁ。・・・ってあれ、もう一つ書いたの?」
「っおい!人の願い事を勝手に覗くな!」
慌てる小十郎さんをよそに覗く。(飾るんだし、別に良いと思うんですけど。)
「えーっと・・・名前がずっと笑ってい「あー!!!見るな見るな!!!!」・・・小十郎さん?」
私が聞いても何も言わずに、小十郎さんは短冊を笹のてっぺんに飾る。(自分の顔が熱いのは、夏のせいだと信じる。)
あぁ、なんか幸せだなぁ。
そう思いながら、小十郎さんのそばへ行く。(ぼーっと立って、何してるのかなぁ・・・とか思ったから。)
しばらくは何も言わなかったけれど、突然小十郎さんが私にこう言った。
「おい、名前・・・見て見ろよ。」
「うぇ?・・・・うわぁ!!」
そう言われて、空を見ると。天の川なのかは知らないけれど、綺麗な星たちが空で輝いていた。


 空へ届け


「名前、来年も七夕をやろうな。」 
「当たり前じゃないですか。」
ただ、来年はちゃんと7月7日にやりますけどね。(その時も、小十郎さんの傍でこうやって星を見るんだ。)



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