ショート | ナノ
淡雪


「・・・・・・だからナマエさんはクリスマス、嫌いなんだ。」 
図書館の仕事を淡々とこなしながら呟く。
『ナマエさん。彼氏と出かけるので仕事変わってくれません?』
そう言ったアルバイトの子を思い出しながら、少し乱暴に本棚に本を戻す。(図書館が閉まるの6時だから我慢しろよ・・・。)
戻すときに、ふと窓の外にいる仲の良さそうな恋人を見た。凄いべたべたくっついている。
「・・・そういうのは・・・家に帰ってからしろ!」
私の叫びは、誰もいない図書館に凄く響いた。(クリスマスじゃなかったら・・・危なかったな。)
 
淡雪

クリスマスだから、羽目をはずしても良いと思う。私はあの楽しい雰囲気が好きだ。
だが、恋人たちのあれは本気でもう少し謹んで欲しい、と思う。
「羨ましい・・・のかなぁ。自分。」
呟きながら図書館の鍵を閉め、休館中の札を掛ける。 
商店街の方では、チカチカとイルミネーションが輝いていて。クリスマスだと言うことを教えてくれる。
私はそれを見つめながら呟いた。
「・・・今日の晩ご飯は、クリスマス仕様にするか!!」
だいたいの食材は買い置きしてあるから、メインディッシュを何か買ってこよう。
冷たい空気を思いっきり吸って、私は商店街の方へと歩き出した。 

「・・・来るんじゃなかった。」
商店街に来たのは良かった。イルミネーション綺麗だし、雰囲気もいい。だけど・・・。
人、人、人。そして、いちゃいちゃしてる恋人も+α。
そういえば、私は人混みがあまり好きじゃなかったわ。そう思い、少し走りながら人混みをかき分ける。
そして、人が少なくなったところで足を遅め、息を整えるために白い息を大きくはいた。 
ここもイルミネーションはあるが、人が少ないなぁ。と思っていると、後ろから走ってくる足音がする。
不思議に思って、後ろを振り返ってみると。走ってくる人物は、私が結構見たことのある人物だった。

「・・・シェゾ?」
「ナマエ、なんでいきなり走った。」
少し不機嫌なシェゾを見ながら、ふと思う。いったい何時から付いてきていたのだろう。
「人混みが好きじゃなかったから。・・・それはいいとして、何時からついてきてたの?」
「ん?ナマエが図書館にいたときからだ。」
さも、何も問題は無いと言うように、堂々と言い放つ。(警察に捕まっても知らないよ?)
「で、何のようさ。」
少し頭が痛くなったのを実感しながら、シェゾに聞いた。
「・・・いや、ナマエがこんな日なのに、働いていたから。」 
いや、それだけの理由でストーカーもどきをされてもなぁ。とか考えながら、私はふと思いついた事を口に出す。
「シェゾ、暇?」
「暇だが・・・どうかしたのかナマエ?」
その言葉を聞いて、私はシェゾの腕を掴む。
「なっ、ナマエ!?」
いきなり腕を掴まれて、驚いているシェゾを見ながら私は言った。
「今日一日、私に付き合え。どうせご飯食べてないんでしょ?一緒に食べよう。」
よく考えたら、クリスマスに一人寂しく食べるのもばかげている。
シェゾの言葉を聞く前に、私は掴んでいる腕を引っ張り、家がある方へと足を進める。
そうして歩いていると、私はあることを思い出した。
「あ。・・・商店街で食材を買うのを忘れてた。」
だが、商店街に戻る気がしなかったので、私は後ろを振り向かなかった。

家にだんだん近づいていくと、イルミネーションの数も少なくなっていく。
少しそれが寂しいと思いながら歩いていると、引っ張られながらも歩いていたシェゾが、急に立ち止まる。 
「おいナマエ。」
「はい、何か「腕を掴むな。」・・・え、暖かいのに。」
そう不満そうに呟くと、シェゾはため息をつきながら手を目の前に出す。
「手なら・・・別にかまわんぞ。」
私は目の前に差し出された手を見ながら、固まる。
その様子を見ていたシェゾは、さっき私がやったみたいに、いきなり手を掴む。
「服の上よりも、こっちの方が暖かいだろナマエ。」
「え、あ。う、うん。」
少しあわてながら話す私に、機嫌を良くしたシェゾは嬉しそうに、私の隣を歩く。
私はと言うと、赤い顔を俯かせて、シェゾの横を歩いている。(赤い顔は寒さのせいだと言い張る。)
「ナマエ、ちゃんと前むけよ。」
「わかってる。」
「ナマエ・・・顔、赤いぞ?」
「!!・・・う、うるさい!!」
そう言いながら顔を上げると、目の前を白い物体が横切った。
「あ・・・雪だ・・・。」 

「雪?・・・あぁ、本当だな。通りで寒いと思っていたんだ。」
そう言って、シェゾと私は立ち止まって空を見上げる。
点々と飾ってあるイルミネーションの光に照らされながら、ゆっくりと落ちてくる雪は、まるで星のようで。
「・・・綺麗だな。」
そう呟いたシェゾの顔があまりにも優しかったから。
「うん。そうだね。」
そう呟いて、私は握られている手を、ゆっくりと握り返していた。

握られている手さえも冷たくなるまで、私たちはその場に立っていた。 
「風邪引くかもね。」
「ナマエの家についたら、暖かいカフェオーレでも飲みたいな。」
「・・・そんなの、自分で作れ。自分で。」
そこまで面倒は見きれないと言いながら、私は笑う。(こんなクリスマスなら・・・悪くはないかもも知れない。)
私が笑うのを見ながら、シェゾは口を開く。
「ナマエ。さっきまで嫌がっていたのに、なんで握っているんだ?」
そう聞かれて、私は驚く。なんで。と言われても、いつの間にか握ってたのだ。
「多分・・・嬉しかったからじゃない?」
自分のことなのに、よくわからない自分がいて、少し笑えたのだけれど。
シェゾはと言うと、いきなり真面目な顔になって、そうか。と呟き俯いた。
「?・・・シェゾ?」
私が不思議に思って顔をのぞき込むと、抱きしめられて唇に何かが当たる。
何か、というのがシェゾのだという事に気づいたときには、顔と顔の距離は離れていた。
「ナマエ。それは‘好き’と言う解釈をして良いのか?」
そう聞かれ、私は少しはにかみながら頷いた。
それを聞いたシェゾは、少し嬉しそうな顔をする。
「・・・ナマエ。」
そして。私の名前を呼んで、もう一度私の顔に近づいてくるシェゾを拒めないのは。

心の中で雪のように積もっていたモノに、気づいてしまったから。

家に帰ってささやかにクリスマスを楽しんでいると、外から音楽が聞こえてきた。
音楽隊が演奏でもしているのだろう。クリスマスを祝う軽快な音が聞こえてくる。
「今年のクリスマスは楽しかったな。」
そう呟くと、シェゾはナマエと、私の名前を呼んでこう言った。
「まだ、クリスマスは終わっていないんだ。」
にこやかに笑うシェゾに、私もつられて笑った。 

クリスマスの音は絶えない


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