ショート | ナノ
お菓子よりも甘い、


今日は大好きな先輩の家に「クリスマスパーティー」とのことで招かれていた。
 朝早く起きて先輩のためにケーキを焼いて。
 鏡の前でちょっと女の子らしくお化粧してみたり。
 意気揚々と先輩の家に出かけたまでは良かったのだが。


甘い指先


先輩の家に入るとまぁ予想はしていたけどたくさんの人が居て。
楽しいのだが、何か複雑な気分だ。
だってまだ先輩と私は付き合ってなんかもない、ただの先輩と後輩。
フェーリみたいに思い切って行動にも出れないから、本当にただの。
「やぁ、ナマエ。来てくれたんだ、嬉しいなぁ。」
先輩はそうやって微笑みかけてくれるから。
だからそれだけで十分なんじゃないかとも思ってしまうのだ。
「先輩から、呼ばれたら来るに決まってるじゃないですか。」
「それはそれは、光栄だね。でもそんな事いってるとつけ上がってしまうよ?」
「先輩は変わりませんねぇ・・・。」
魔導の力によって外見が変わらないとかそう言うことではなくて。
「相変わらず、あやしい、って事かな?」
「いいえ?相変わらず格好いいって言ってるんですよ。」
冗談としてなら簡単に言葉は出てくるのに。
「誉めてもお菓子くらいしかあげられないよ?」
「じゃぁ、先輩おすすめのスウィートキャンディー頂けますか?」
「いいよ〜、ちょっと待っててね。」
そう言いながらどこかにお菓子を取りに行く先輩を目で追いかける。
手に持っているケーキはいつ渡すのが良いのだろう。
それに、なんかもうよく見ると大きなウエディングサイズほどのケーキが真ん中に陣取っている。
〈先輩・・・なんか頑張ってるな。〉
結局の所ケーキ含め手作りお菓子類で先輩に勝てるはずがないのだ。
彼は甘みのプロフェッショナルなのだから。
〈ケーキ・・・どうしようか。先輩のケーキより美味しい自信なんてないし。〉
そんなことを考えていたせいで一瞬の反応が遅れた。
目の前に飛び込んでくる一人の男の子。
「ナマエ先輩〜!!」
いつもなら避けられるはずなのだが今日は床にそのまま倒れてしまった。
「ぅわ・・・クッ・・・クルーク!!」
「あれ、ナマエ先輩、珍しいですね。どうしたんですか・・・ってうわ!!」
何を見たのかは解らないのだが、凄い勢いで青ざめていくクルークの顔。
「す・・・すみませんっ!!ナマエ先輩、それ・・・。」
彼の指した先には先ほどのケーキの箱が開いて潰れていた。
クルークは途端に泣きそうな顔をして下を向いてしまう。
「えっと・・・大丈夫だよ、だってあそこに大きなのあるじゃない?」
クルークは私の指さした先を見る。
「でも、あれは先輩が作ったケーキだったんだよね?」
「んー、別に大丈夫だよ?家に持って帰ろうとか思ってた物だから。」
クルークを落ち着かせてから立つと、みんなこっちを見ている。
(まぁ、あれだけやって誰も気づかなかったらそれはそれで問題よね。)
「ナマエ先輩、服にクリーム付いてる。」
一番はじめにそう言ったのはフェーリ。
その言葉にはっとして見ると腰辺りに少し白いクリームが付いていた。
「じゃぁ今日はここで帰るよ。先輩には用事があって帰ったって言っておいてくれる?」
フェーリは少し寂しそうな顔をした。
「大丈夫だって!一人いなくたってパーティーは出来るでしょ?」
「すみません、ナマエ先輩、僕のせいで・・・。」
「もう二人とも、子供じゃないんだから〈注:子供です〉めそめそしないの!」
そう二人に言って玄関に向かおうとすると腕を後ろから捕まれる。
「私は気にしてないから、大丈夫だって〜・・・って、先輩っ!!」
「ナマエは気にしないかも知れないけど、僕は結構気にするんだけどな。」
「先輩のケーキ食べられなくて残念ですが・・・今日はこれで帰ります。」
そう言って扉のノブに手をかけるが、扉をあかないように先輩が押さえている。
「えと・・・私、帰るんですが。」
「あれ・・・僕にくれるやつだったんでしょ?違う?」
確かにレムレス先輩の為に作った物ではあったのだが。
今更欲しいと言われても潰れてしまって今はゴミ箱あたりに IN されているだろう。
「そうでしたけど・・・でもケーキなら先輩のがあるじゃないですか。」
「解らないようだから言っておくけど、僕は君のが食べたかったんだ。」
先輩はいつもの甘い顔じゃなくて真剣な顔で言った。
「いや、でも先輩のより美味しくないですし。」
「それを決めるのは僕だよね?」
確かにそう言われてみればそうなのだが。
「また、僕のために作ってくれる?」
「なんでそこまで拘るんですか、甘い物ならどのケーキでも同じですよね?」
「好きな子に作ってもらうケーキは、特別美味しいにきまってるじゃない?」
その言葉に耳を疑った。
「え・・・?好きな子って、なんですか?」
「僕、それっぽいこと何回も言ったよ?もしかして気づいてなかった?」
「全部、冗談だと思ってました。」(だって先輩みんなにもそう言うこと言いそうだし←)
「うーん、そんなに僕は信用がないのかな?」
少しも考えるような顔をせずに先輩は言う。逆に凄く怖いです。
「取りあえず返事を聞いても良いかな?」
「先輩、解ってやってるなら凄く、趣味が悪いです。」
「あ、解る?でもそんな僕でも好きでしょ?」
「う”ー・・・そうなんですが。」
「みんなが帰ったら、二人だけでお祝いしようか。」
〈また後日、ケーキをまた焼いて欲しいとか言うんだろう、この人は。〉


お菓子よりも甘い貴方

(甘すぎて虫歯になりそうな程)


  back