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愛に時間は関係ないだろ


一週間前、買い物をしに行ったら、何故かお菓子のコーナーに人ざかりが出来ていた。
あぁ、お菓子づくりに目覚めたのかなぁ・・・とか思っていた。
そんなこんなで、今、私は走っている。
なんでもっと早く行ってくれなかったんだ!!レムレス!


2月24日のバレンタインデー


さっきまで、私はのんびりと広場で過ごしていたはずなのに。
レムレスとの会話で、私はこうして家まで走っている。
『ナマエ、今年はシェゾだけに贈ったのかい?僕は悲しいな。チロルでも良いから欲しかったな。』
『・・・何の話?』
『え?とぼけなくて良いよーナマエ。チョコレートだよ、チョコレート。』
『チョコ・・・レート?』
『・・・・・もしかして、ナマエ。先週バレンタインデーってこと、忘れてた?』
『あー!!!!!!』
そう叫んだ途端、私は走り出していた。
バレンタインデーを忘れるなんて、私は女失格かもしれない。

家に帰って、私は早速チョコレートを作りにかかった。
そして作っている最中、私はシェゾのことを思い出していた。
普段変た・・・バカだが、こう言うことになると、私よりも乙女だと思う。
「・・・先週、バレンタインデーって事知ってたかな・・・?」
知らなかった方向で行きたい。むしろ、そうして欲しい。(あいつ、結構長生きしてるし、知らないことにしたい。)
「でも、もし知っていたら・・・。」
そう呟いた途端、シェゾに垂れた子犬の耳が生えたような気がした。
・・・シェゾはそんなことでは凹まない・・・と信じてる。
「それか、あいつも私みたいに忘れていたって、事にしとこう!!」
と言うか、今思った。
「シェゾに・・・最近会ってないな。」
もしかしたら、実は怒ってて、もう金輪際会わないとか・・・。
考えれば考えるほど、嫌な方向へと進んでいくので、お菓子作りに専念することにした。
いつもならもう少し手際よく作れるはずなのに、何故か手が思うように動いてくれなかった。

作り始めたのは昼頃。ラッピングに手間がかかったとしても、夕方頃には渡せると思っていた。
だが辺りを見渡すと、辺りは暗く、人影が少なくなっていた。
自分の懐中時計を見てみると、時計の針は8の数字を指していた。
なんでこんなに時間がかかってしまったのかよく分からなくて、少し自分に対して苛ついてしまう。
そして、もっと自分が嫌になってくるのは。
「なんで、2時間ぐらいここで立ち往生しているんだろう。」
目の前にあるのはシェゾの家。窓からは明かりが漏れているので、中に居ることが分かっているので、別に待たなくても良い。
待たなくても良いはずなのに、私は未だこのドアを叩くのをためらっている。
「前の自分だったら、こんなのすぐに叩いて中に入っていたはずなんだけど・・・。」
頭では扉をたたけ、と自分の冷え切った体に叫んでいるが、凍ってしまったかのように私の体は指一本動いてくれない。
ただ目の奥が妙に熱くて、胸が痛くて。ため息とも言える白い息が、私の口から出てくる。
弱くなった、と思う。昔から、自分は精神的に弱いと思っていたけど、今はそれよりも。
足が、体が、家に帰りたいと叫んでいる。でも、私の体のどこかでシェゾに会いたいと、叫んでいる。
二つの思いが体の中で暴れていて、呼吸すらも思うように出来なくなる。
次第に歪んで見える視界に耐えきれなくて、私は壁に体を預けながら座り込む。
そうしていると、ふと、白いものが視界に映った。それを触ってみると、その正体が分かった。
「雪・・・か。通りで寒いと思った。」
そう言いながら、私は気分を少しでも明るくするために、炎で蝶を作って飛ばしてみる。
だけど白く静かなこの世界では、紅い蝶は異質すぎた。
たった一匹で飛んでいる蝶は、親を見失った子供のようで。今の私もそうなんだろうな、とか思ってしまう。
紅い蝶は、この白い世界から逃げ出すことも、溶けることも出来ない。
そう考えると、またミシリと胸が悲鳴をあげる。それを感じて、私は笑った。
すると、いきなり背を預けていた壁が動いて、私は飛び退いた。私が壁だと思っていた物は扉で。その中からのぞいていたのは。
「・・・シェ・・・シェゾ。」
「!!・・・ナマエ、お前何やってんだ!?ほら、中に早く入れ。死んじまうぞ!」
そう言われ、私は中へと引きずられていった。

部屋の中は、真面目に外より温かかった。だけど。シェゾの視線がもの凄く痛い。
「シェ、シェゾ。自分、何かしたっけ・・・・?」
そう言うしかなかった自分に、少しいらいらしながらも聞いてみると、相手は盛大なため息をついた。
「ナマエ。・・・なんでお前は中に入ってこないんだ。俺が居ることぐらい分かっていただろう!?」
「・・・ごめん。最近会っていなかったから、入りずらくて・・・。」
そう、しどろもどろに答えると、「それは違うだろ、ナマエ。」とシェゾは言う。私はそれを不思議に思って、シェゾのほうを見る。
「・・・バレンタインデー、忘れてたんだろ。」
それを聞いて、顔が自然と俯いてくる。すると、シェゾが無理矢理私の顔を上げて抱きしめる。
「ナマエに、嫌われたと思った。だから、ナマエの家にも行けなかった。」
だから、ごめん。と小さくだが聞こえた。(多分シェゾは、捨てられた子犬のような顔をしているに違いない。)
「うん・・・ごめん。」
もう何を言ったらいいのか分からなくて、シェゾの背中に手を回す。
そうしていると、私の背中あたりで何かを開けている音がする。(多分チョコレートだろう。)
「1週間後だけど・・・それでも良いならどうぞ。」
そう言うと、「別にすぎてたって良いさ。」と呟き、私の頬に唇を寄せながら、彼はこういった。

愛に時間は関係ないだろ

少しすると、チョコが口の中に入った音がして、「うまい。」と聞こえた。
その声を聞いただけで、ここに来るまでの痛みを忘れてしまう。こんな変態なの為に、一喜一憂している自分は重症だと思う。
でも、それが心地よいと感じてしまっているから、それこそ末期だ。
顔がどんどん熱くなるのを感じて、私は回していた手の力を強める。
幸せをかみしめながら。

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