水面月 会社の近くで見かけた桜並木が綺麗なので一緒に見ませんか、やっとの思いでナマエさんにそれを伝えた結果。 「・・・綺麗だねぇ・・・・。」 「そ、そうですねぇ!」 ヨザクラなるものを見に来ています。何かもう、一緒に歩いているだけで、僕は幸せなんですけど。 『早く告白しないと、他の男に取られちゃうわよ!』 そう言った、多分恋する乙女な3人組の言葉と横で幸せそうに眺めているナマエさんを、交互に比べて小さく溜息をついた。言って気まずくなるよりかは、今のままの方が良い気がするけど・・・。そう思うが、それでも彼女が止まるときに、口を小さく動かしてしまう自分が嫌になる。せっかく一緒に花見に来ているというのに、これでは台無しである。もう今日は諦めて、ナマエさんと仲良く花見をしようと、自分の中で自己完結をしようとしていたその時。急に彼女がこちらを振り向いた。 「・・・聞いてた?」 「・・・・・・・・・・・な、何でしょう。」 やっぱり聞いてなかったんだ。そう苦笑しながら言って、さっき僕に言ったことと思われる内容を、もう一度唇に乗せた。 「ここ、池が有ったんだね。って言ったんだ。」 「え、あぁ、有ります。ここを通るときによく見ます。」 正確には貯水池ですけど。とは言いづらく、そう言うと、「へぇ。」と呟いて、また視線をその池に戻す。 「月夜に浮かぶ桜も綺麗だけど、池に浮かぶ桜も綺麗で私は好きだよ。」 それを聞いて、ふと日本流のそう言う気持ちの伝え方を思い出したので、急いで僕は明るい夜空を見上げて、その存在を探す。その存在は大きく、すぐに見つけられた。材料は揃った。あの言葉でなら、僕にも言えるだろう。そう思って、浅く呼吸を吸って、口を開く。 「ナマエさ「なぁ、イワン。」 はい。と、彼女に押し切られてしまった時点で、この勇気はまたいつかの日に回すことにした。多分、今日はもう言える気がしない。 「池、綺麗だと思わないか?」 「あ、はい。綺麗です。」 「!・・・・・・そうか、じゃぁ、帰ろう。」 驚いた後少しばつが悪そうにして、伏し目がちに笑ったナマエさんにどきりとしたのと同時に、少しの疑問が湧いた。なんで、笑ったのだろうか、と。もう行くよ、と何故か早足で帰っていこうとするナマエさんに追いつこうとした時。ふと、明るいものが視界に入った。 暗い闇の中に、桜が落ちるたびに円を作る池。そこにあったのは。 ひねくれ者の詩 黒と桜色、何とも言い表せない落ち着いた明るさの丸い月。 (ナマエさん、え、さっきのって・・・どういう・・・。) (な・・・何でもない、そのまんまの意味だから、気にするな!) (そのまんまって・・・えっと・・・?) どんどん歩調が早くなっていく貴女と、それに追いつこうと少し走り始めている僕。 僕の思い上がりでなければ、今、貴女に伝えたいことがあるんです。 back |