ショート | ナノ
この感情に名前を付けるなら


本の内容を気にする事もなく、ぱらぱらと捲っては閉じ、捲ってはまた閉じるという行動を繰り返している。
「ナマエそれ、何がしたいんですか。」
そう言われたのを合図にして、私は口を開いた。


Q:この思いに名前を付けるなら?


「・・・は?」
「いえ、だから。私を思う気持ちを言葉にするなら、どんな言葉で表しますか?って聞いたんです。「それは解ってます。」
さっきの私とは違い、ちゃんと本を読んでいたバーナビーさんは栞を挟んで体ごとこちらを向ける。

「・・・・・・ナマエ、いきなりなんでそんなことを?」
「・・・・・・何となく?ですかね?」
「疑問系で返さないでくれませんか。」

でも、そんな何かしら深刻な悩み事とかあったわけではない。ただ、唐突にそう思っただけだ。
呆れた目でこっちを見て来る彼に、なんて弁解しようか。と思っていたときだった。

いきなり彼は立ち上がり、紙とペンを持ってきて、何かサラサラと書き始める。
・・・このひと、私を英語が苦手だと言うことを忘れているのだろうか。
サラサラと書かれる文字は、どう見たってブロック体じゃない。筆記体である。
素敵なアラベスクが紙いっぱいに出来るのではないかと、少し心配したのだが、どうやらそれは杞憂だったようで。
大きな白い紙の真ん中に堂々と、それで居て少し居心地が悪そうに小さなアラベスクが書かれている。

「バーナビーさん・・・なんですか、いきなり。」
「気持ち、言葉に表して欲しいと言われたので。」
そう言って、彼は私に紙を見せる。

「読めますか?」
少しイラッとする言葉を付け足して、彼はもう一度私の顔面にそれを見せる。
その挑発に乗った私は、少しムキになりながらそこに書かれた文面を声に出した。
この後、めちゃくちゃ笑われるとは思いも寄らなかったけど。


A:あ・あ・あ


「AAAで“ノーネーム”って読むんですよ。」

ひとしきり笑って、未だ笑い足りないのか、彼はそう言いながらまだクスクスと馬鹿にするように笑う。

「良いんです、日本人はそんな雑学は知らなくて良いんです。」
「へぇ・・・これ、雑学だったんですか。」

まぁ良いですけど、どういう意味か、聞きたくないですか?と、今まで見たことの無いような笑顔で私に言った。

(名前が付けられないくらい好きだって事ですよ。)
(あ、嫌われてると思ってましたよ・・・よかった・・・・というか、バーナビーさんって意外とロマンチストさんなんですね。)
(・・・・ナマエ?)
(あ、はい?)
(・・・ナマエそれは馬鹿なのか、知っててやっているのか、天然なのか。どれですか。)


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