ショート | ナノ
ジャック・オー・ランタンが帰る前に


「ナマエくん、こんばんは。そして、ハッピーハロウィーン!」
「ナマエ、トリックオアトリート!」
「お菓子沢山頂戴!」

そう言って、私の仕事場まで侵入してそう言うキースさんとカリーナ、そしてホァンちゃん。 ホァンちゃんに至っては、もうこの行事を『お菓子をタダで大量に貰える日』だと思っていそうだ・・・と苦笑いしながら棚の中から3つ袋を取り出す。

「なーんだ、用意してたんだ。」
「お祭り好きの日本人を舐めて貰っては困りますね。」

悪戯する気満々だったのか、カリーナは少し不服そうに袋を手に取った。(他の2人はいつの間にか袋の中を物色し始めていた。)いつもはきっちり公私混同を分けているつもりなので(彼等曰く「分けすぎだ」らしいが。)今日みたいなイベントの日は、少し多めに見て欲しい。

「まぁ、此処でも今日はハロウィーン一色みたいですし、私もそれに乗ったというか「ナマエ!」はい、なんでしょう。」
「ホァンくんの袋だけやけに大きくないかい!?」
「ホァンちゃんは、良く食べますので・・・「私だってこの、ジャガジャガ・リコくんを食べたい・・・。」あの、貴方の袋の中にも入っているんですけど。」
少し寂しそうに筒状のパッケージを私に見せながら、そう訴える。
(そして、もっとお菓子が欲しかったと言われる。)
まぁ確かに、普通の袋とゴミ袋サイズの格差は大きかっただろうか。

結局、棚の中に入っていたポリ袋にお菓子をありったけ詰め込んで、彼に渡した。(多分・・・アレはゴミ袋・・・まぁ、新品だから良いか。)そうして「良いハロウィーンを!!」と3人が口々に言った後、彼等は帰っていった。そして、その後イワンとアントニオさんがやって来て、同じように帰っていった。基本私の私お菓子は日本製品なので、あまり口にしないのであろう、アントニオさんは「こんな良いもの貰って良いのか?」と聞かれてしまった。

(・・・プニッツとかの市販のお菓子なんだけどなぁ。)
そしてイワンに和菓子とその袋をセットで渡したら、案の定すごく嬉しそうにもらっていた。ネイサンは今日来れないと行っていたので、小包で送った。多分もう、届いている頃だろう。バーナビーさんは「要りません」と言っていたので、嫌がらせにプッキーを家の近くを通ったときに、ポストの中に突っ込んで置いたし。後は、残る一人。
棚に残っているたった1つの袋をチラッと見た後、また仕事に戻ることにした。

彼が来たのは、私達の勤務が解かれるちょと前のこと。
「遅かったんですね。・・・こんな時間まで仕事していたとは思えませんけど。」
「んー・・・まぁ、いろいろあってな!」
ほい、と手を出されたので、私はすかさず手の上に袋を置く。

「・・・・・ナマエ、お前用意してたのかよ。」
「当たり前です。貴方に一番、悪戯されたくないものでして。」
そう言っていたら、すかさず彼は袋を開け始める。

「・・・虎徹さん、帰りますよ。」
「わーかってるって、ナマエ!」
そう言ってお菓子を頬張りながら笑う貴方は、少し危険な感じがした。

それを知ってか知らずか、「これ食べ終わったら、お菓子もう無いんだよな?」と悪人面で笑うなんて、ヒーロー失格じゃないんですか。


悪戯への不規則なカウントダウン


・・・車を走らせながら、ちらりと横目で彼の方を見る。袋の中身があとほんの少ししかないのを見て、もう少し量を増やしておけば良かった・・・と小さく呟く。
しかし、一番最後に飴が入っているのが確認できて、少しはホッとする。・・・家までは大丈夫だろう。そうしたら、家に確かお菓子が・・・・・・ん?

色々画策していると、まるで、とある恐竜もどきが建物を足で踏みつぶすような音がした。バリンバリン、ゴリゴリと。それは私のささやかな期待も踏みつぶしていくような音で、丁度赤信号になったので、虎徹さんの方を見ると、飴を噛んでるのが見えた。


(あの・・・虎徹さん、飴を噛まなくても良いんじゃないですか。)
(あ?俺、飴は噛んじゃう方だけど。)
(・・・・・・。)
(ナマエ。)
(はい。)
(わりぃ、無くなった。)

そう言って笑うのを見ていると、まるで人の皮をかぶった悪魔のようで。そして、その悪魔は至極楽しそうに「Trick or Treat」と言った。


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