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お腹が空いたのなら


ぐらりと視界が朱に染まる。
ピンク色の鬼が言っていた制限の時間を超えた体は見事に食い荒らされて、既にもう限界を超えていた。

『お前は、ここで死んでも良いのか?』
ピンク色の鬼が俺に問いかける。
「そんなわけ、ねーじゃねーか・・・。俺は、まだ、」
死ぬ覚悟は出来ている、だが、覚悟が出来ているのと死んでも良いと思うのとは違う。 最後の最後まで俺は生きていたいのだ。

「生きてぇよ・・・でも、体がもう動かねーんだ。」
『・・・生き延びる方法が無い訳じゃない。』
「お優しいじゃねーか。どうした?」

お前が死んだら、必然的に俺も消滅するんだと言う鬼の言葉。共存している側として、その提案は俺としても有り難いものだったのだが、どうもそれに引っかかりを感じて問いつめる。

『勿論、代償は貰うぞ。 とびきりのな。』
「・・・何だ、」
鬼がその質問にニタァと目を細めて笑う。それを至極不可解に思いながらも、俺はその場で頷いた。
『まぁ、後で後悔しても、俺は知らぬ事だ・・・』
「ああ、腕でもなんでも持っていきやがれ・・・」


『何でも、だな。』


目を開けるとそこは赤、赤、赤。 己の血ではない、では誰の?

ふ、と一緒につれていた小松の存在を傍らに感じず、見渡せば、酷く離れた場所でこちらを脅えた目で見つめ震える小松の姿が視界に入る。くらりと噎せ返る血の匂い。おかしい、と脳が警告を告げている。見てはいけない、そう思うのだが。


「なぁ、小松。 なにをそんな脅えてるんだ?」
「っひ、」

小松までの近い距離。先程までは酷く重かった足が酷く軽い。なぁ、俺は一体何を喰った?

ぐしゃり、と足の下で潰れた物は、さらに赤い雫を土に染み込ませる。濡らした足先を見遣れば、長い黒髪が指に絡みついていた。
これは、ナンダ?


「なぁ、小松。 今日は俺とお前と、2人だけのハントだったよな・・・?」
「・・・!!!」

小松の目が見開かれる。瞳孔までも開いているんじゃないかといわんばかりに見開かれた目からは、酷く俺を責めるような、それでいて脅えるような視線と、決壊した涙。


「もしかして、俺が喰ったのは、」


見返りは大きければ大きいほど、罪深い


『だから、言っただろう?』
泣き崩れる己の耳元で、己の中の鬼が笑う声が反響した。


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