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貴方がくれるなら何でも


『ハントは中止。風邪を引きました。絶対に来ないでください。』

今日はそう言えば奴から勝手に申し込まれた強制デート(連行)の日、メールが一通来ていた。正直どうあってもお断りしたいと思っていただけに文面は凄く有り難い。なんといっても美食屋の彼の修行に付き合うというデートコースはどう考えても荷が重い。

「ほぉう・・・?」

どう断ろうかと思っていた矢先のメールで、ハントが中止になってよかったと思う反面、少し拍子抜けしてしまったのも事実である。一応休みを取ってしまっているので、はい中止!といわれてもする事がない。

「ココが風邪・・・ねぇ・・・」
文面に目を滑らせれば簡素な文面には面白いことが書かれているではないか。弱ったココなんて面白い、と考え無しの自分はその文面をもう一度読み直してから意気揚々と準備を整えてグルメフォーチュン往きの電車に飛び乗った。本当に、今気付けばかなり考え無しだったのだ。

断崖絶壁の家に着いてみれば、リビングの何処を探しても男の姿は無い。病人だから寝ているのか、と勝手に納得して寝室に入ろうとドアノブを握ったところで違和感に気付く。なんだかおかしくないか? 疑問を何処か胸に抱えながらノブを捻る。あっけなく開いた扉の向こうを見遣れば、慌てた様子の男が部屋中を走り回っている。

「うっわ・・・」
「・・・ナマエ、来るなっていっただろう!!」

思わず上げてしまった声に気付いたのか、部屋の中から余裕のない声が飛んでくる。

「あー、もう・・・君って奴は・・・」

ばたばたと走る足音。なんだか普通に元気そうだと感じた。

「仮病・・・?」

ひょこりとドアノブを回して、中を覗き込めば中の様子は面白いことになっていた。机の上にはなにやら黒色の上等なスーツ(彼にしてはまともな趣味の)と白い箱。あと片づけられていたであろう彼の部屋が酷いことに泥棒に入られたのかと間違えんばかりに
乱雑な感じに服やものがベッドに床に散乱していた。

「・・・どしたの、それ。」
「・・・ナマエは自分の誕生日も覚えてないの?」

スーツのジャケットに袖を通しながら呆れたようにココは言う。彼の部屋の壁ににかけてあるアナログカレンダーを覗けば、今日は確かに私の誕生日だ。該当の個所に大きくマーカーで印まで付けてくれている。

「まったく、サプライズにしようと思ってたのに。情けないところばっかり見られるし・・・」
じっとりとこちらを見るココに申し訳ないと思いながらも、次第に口角が上がっていくのは隠せない。 だって、嬉しい。

「ありがと。覚えててくれて。」
「とうの本人が忘れてたら意味無いと思うんだけどね。」
ちくりとした毒舌も、今日はなんだか気にならない。そうかも、と大人しく付け加えておけば相手もどこか物足りなさそうに微笑む。
「・・・とりあえず、ハッピーバースデーナマエ。」
「・・・ありがと!」

彼はターバンを巻いてない頭を落ち尽きなく撫でつけると、机の上に置いてあったあの白い箱を掌の上に乗せてくれた。

「はい、プレゼント。要らなかったら処分してくれて良いから。」
「・・・ありがと、中身は何?」
「プレゼントは中身を聞く前に、開封してみたらどう?」
「じゃあ遠慮なく。」

がさり、と包装の包みを開封してみればそこにあったのは綺麗な、

「や・・・やったー! 丁度ピアスほしかったんダー・・・!」

包みの中にはお揃いであろう彼のチェーンカフスデザインの色違いになるピアスが入っていた。正直自分の好みではないが、プレゼントは有り難く頂く主義だ。とりあえず感謝を述べてみたのだが、完全に失敗したという顔をしている相手を見て思いだした。そう言えばこの人、目が良すぎるんだった。

「ボク、電磁波でだいたい分かるんだけど・・・今日は誕生日だから多めに見てあげる。」
「うっ、ごめんなさい・・・でも、気持ちは本当嬉しい・・・。」
「うん、もういいから支度して。小松君のところでディナー予約してあるから。」

溜息と共に吐き出された言葉に、どうしようもなく現金な自分の胸は高鳴ってしまう。今日はなんだかんだで楽しい誕生日になりそうだ。


失敗だらけのハッピーバースデー

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