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潤うばかりか渇くだけ


あまりの暑さに目を細めて上を見ればやはりさんさんと照りつける太陽。もう何も動く気すらしない。

「ったく、あちー」

呟くことさえ、面倒になって、次第に独り言も言うのを止めた。

喉が渇く。思考が痺れて、視界が霞む。

(ああ、俺、こんなところで、死ぬのかなぁ)

とりあえず余計な水分を消耗しないように、考える事も止めた。

視界に影。 実際には目をつぶっているから、見えているわけじゃない。瞼にかかる光の濃度が変わったのだ。

「・・・おい、ナマエ」
「・・・トラファルガー?」
呼びかける声は、聞き慣れた声で。

「俺、もう死ぬのかな。」
瞼を開けることなく問いかければ、ため息と冷たい唇が降ってきた。

「っふ・・・っ?!」

唇を相手に任せるように開くと、流れ込む水。それを零さぬようにゆっくり喉に流し込む。最後の方は両方の口腔で水が温められていて、あまり美味しくなかったが。

「ただの熱中症だ、馬鹿野郎。」

こんなところで昼寝なんぞしてるからだ、なんてローが面倒くさそうに言う。

「さっきまで、隣に麦藁が居たんだ。」
「それで?」
「誘われて一緒に昼寝してたんだけど、起きたら居なかった。」
「馬鹿だろ、お前。干からびたくなけりゃ次から止めておけ。」

熱中症なんてポピュラーな症状で倒れてどうする、なんて。大病院のご子息からありがたい忠告を頂いた。

「ん、もう懲りた。」

へら、と笑えば上から降りかかる水。

「・・・?!」
「目、覚めたろ?」

やっと目を開けて見ると、ローの手に握られているのは空のペットボトル。降り注いだ水は自慢のプリントTシャツを濡らして、肌に染み込む。ひやっとしたのもつかの間。また暑さが戻ってくる。

「っ、もったいねぇな。」

ローから奪ったミネラルウオーターのペットボトルを傾けても、やはり一滴も落ちてこない。

「あちぃ。」

強請るように水の入っていないローの唇に口づけた。ああ、もう一口欲しいなんて言ったら、怒られるだろうか。


潤うばかりか渇くだけ

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