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明日貴方が泣いていても


「まだ治療方法が確立されてない。」

治らない病気だと聞いたのは何時だったか。残念だが、治らないと。自分よりも悲しそうな顔をして泣くその頬に手を宛てて、呟く。
「大丈夫、」
根拠なんてどこにも無く、有るのは先に有る確かな終焉だけ。それでも、絶望して進むのは私らしく無いし、彼らしいとも思わない。

「北の海まで、送る。」

それは、船長として? それとも医者として?恋人として?

「ふざけるなよ。」

船長としての命令でないなら、いや、船長の命令だったとしても船を降りる気なんて無いんだ。 船に一緒に乗り込んだ日から、死ぬ覚悟なんてとうに出来ていたのだから。
今更、病気がなんだ。感染症の病気なら、潔く降りたかも知れない。でもこれは純粋に自分の元々持っていた持病の悪化によるものなのだ。遅かれ早かれ、この病気で死ぬことは解っていた。

「覚悟もなく連れだした訳じゃないんだろう。 今更、怖いのか?」

戦場で死ぬのも船室で死ぬのも死ぬにはかわりないのだから。今更陸に戻るくらいなら、いっそ殺してくれたほうがいい。

「最後まで連れていって、出来ないなら殺して。」

彼は目をいっぱいに開いてから下を向いて押し黙る。

「馬鹿なこと言うな。患者にとって最善を尽くすのが医者だ。」
「治らないのは、承知の上だ。 悪化したからって今更変わらないだろ。」

それでも納得の行かない顔をするロー。こちらの話を聞かない、船長の頭を強制的に冷やさせるために、ローを抱きしめて、自分ごと足下の青色にダイブする。停泊中の船は浅瀬に着けられているので普通の人は滅多に溺れない。それでも水に嫌われた能力者には十分な深さ。 北の海と違って夜でもぬるい海の水が肺に浸食して噎せ返る。激しく咳込む恋人に、笑いを隠せない。あきらかに苦しそうに眉間に皺を寄せる男。頭もそろそろ冷えただろう。少しだけ優勢になったことを確認し、 海から引き上げた後も、ローは何も言わずぐったりと肩で息をした。

「ねぇ、聞いてる?」
問えば、小さく頷くのが見える。

「ロー、連れだした事、後悔してるなら、違うよ」

だって白黒だった世界に色をつけたのは何時だってローだったし、こんなに温い海に出会えたのもローが連れ出してくれたから。

「俺が後悔してないのに、何故ローが後悔する必要があるの?」
「俺は、医者なのに、一番助けたいお前を助けられない。」

「死の外科医、だろ?」

からかうと顔を歪める。

「馬鹿なことで悩んでないで。前だけ見ろ。俺はローに付いていくから。」


明日貴方が泣いていても、今日笑いあえればいい

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