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柔らかさのはじっこ


高く、高く、誰よりも高く。
歩幅を大きくして走って、飛んで。

イケメン揃いの陸上部の中ではいささか地味な顔。
でも、高く飛ぶその姿は誰よりも美しい。
「やっぱマルコすげぇ!!」
大きく声を上げるのは、短距離走の特待生のエースとリレー代表のサッチだ。
「馬鹿、テメェとは得意種目が違ぇんだ。俺はお前達ほど早く走れねぇよぃ。」 
「ははっ、そっか。」
「それにしても、またこっち見てるねぃ。あいつ。」
言っている言葉は遠くて良く聞こえない。
でも突如、指をさされて恥ずかしくなる。
校舎の窓のカーテンを慌てて閉じた。

「ったく、誰を見てるのか知らないがご苦労なことだよなぁ。」
「まぁ、俺じゃねぇのは確かだよぃ。」


「あ、惜しい。 もう少しだったのに。」
カタン、と落ちるバー。
「何が、もう少しなんだ?」
「いや、あれがちょっとね・・・」
答えてから、はっとする。
此処は図書室で、私に話しかけてくる友達は現在部活中なのだ。
そして顔を見ると、何度も窓から見えた顔。
「サ・・・サッチ先輩!」
あまりに驚いた声が大きかったのか、他の利用者があきらかに不快な顔をする。

「今日も、見てたのはマルコか。」
「え・・・あ、はい。」
「話かけないの?」
「しないです。」
図書館なので小さい声での会話。
特に可愛いわけでもないし、特技があるわけでもないし。
「見てるだけで良いんです。」
「全く焦れったい奴らだなぁ・・・!!」
サッチが頭を掻いたところで図書館の扉が勢いよく開く。

「ったく、サッチィ・・・何練習さぼって何やってるんだよぃ。」
「マルコっ・・・!!いつの間に・・・っ、」
「窓にサッチの姿が見えたから迎えに来てやったって言うのに、随分とつれねぇ奴だねぃ。」
2人の会話に、そそくさと席を立つ。
「だーっ、行くからさァ!! ・・・あ、マルコ、メロンパンお前の奢りな?」
マルコの肩をぽん、と叩いて図書室を出ていくサッチ。
まだ図書室の中に居るマルコは明らかにこっちを見ている。
「・・・おい、」
背中に突き刺さる視線。
「・・・私、かな。 やっぱり。」
「お前しかいねぇだろぃ。」
いつも図書館の窓からしか見れなかった金色。
そこからではよく見れなかった青色の瞳が自分を見つめている。

「・・・・・・何でしょう、か。」
何見てるんだ、とでも言われるのだろうか。
「見るんだったら、もっと近くでみたらどうだぃ?」
「・・・っ、はい。」
サッチ先輩が後ろでにやにや笑っていた。


柔らかさのはじっこ


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