ショート | ナノ
ぐるり遠回りをして


たまにしか鳴らない携帯のメロディが耳を掠めた。
ナマエは、何か用事がないとメールも電話もしてこない奴だったので、何かあったのだろうと思いながら携帯を見る。
一番上に表示されているあいつのであろう、メールを確認すると。
件名がマルコの事について、と書いてあり、おれは目を疑ってしまう。
おれ、何かしたかい・・・?

遠回しのラブコール

「お、返ってきた、返ってきた。」
マナーモードにしっぱなしの携帯が体を震わせたのを見て、私は独り言を言いながらそれに手を伸ばす。
内容を見てみると、【ナマエ。おれ、なにかしたか?】の一文が目に飛び込んでくる。
それを見て、私は笑いを噛み締めながら、慣れないボタンを押し始める。
もうすぐマルコの誕生日なのに、本人気づいてないなんてね。
【もうすぐ、マルコの誕生日だと思ったんだけどなぁ。あれ、違ったっけ?】そう書いて、送信ボタンを押した。

返ってきたのはすぐ後で。内容はと言うと、何かそんな日あったなぁみたいな反応だった。
まぁ、そう言う態度でも別に気にしない。どちらかと言うと、マルコはそんなこと気にしなさそうな人間な気がするし。
こう思っちゃいけないのだろうが、逆に覚えていたら私は引いてしまうと思うよ、うん、ごめん。
「・・・まぁいいや。‘プレゼントは何が良いですか?’っと。」     
どうせ答えはもう解っている。‘何でも良い’その一言が彼の頭にあるだろうから。
なので、下の方に【ケーキ美味しいよ、ケーキ。プレゼントと言ったらケーキだと思うよ!!】と彼の脳内の答えの範囲を広げてあげる事にする。
私が食べたいわけじゃない。断じて。・・・でも、少しは分けて欲しい。
そう言う自分の欲望を書いてメールを送ると、【ナマエが食べたいだけだろ。】と、突っ込まれた。
メールの本文はそれだけでは終わらなくて、最後に【お前の誕生日おめでとうって言うメールが欲しい。】と書いてあった。
「え、何これ。・・・マルコ、欲が無さ過ぎだろ。」
もう少し欲を出しても良いのではないのかと思ったけど、一応【了解】と打っておく。
「・・・・・・‘でも、もう少しわがまま言っても良いと思うよ!例えば、何か欲しいとかさぁ。’・・・うん。これでいいや、そうしーん。」
打ち終わった後、何度か見直して送信ボタンを押す。
しかし送信した瞬間、私はふと何を思ったのか、続けてマルコにもう一つメールを送ってみた。
何も考えずに送ったもう一つのメールを見直していると、どういう反応が来るのか凄く楽しみになってくる。
【あ、でも『お前が欲しいよぃ』って書かれても無理だからね!!← まぁ、ないか!!(笑)】
そして、その文章の隣には自己主張しているパイナップルの絵文字。
「あー・・・でも、怒られるかなぁ。パイナップルよりもバナナの方が良かったかな・・・?」
内心ビクビクしながら彼の返信を待つ事にした。

10分、20分、30分。待つ時間はどんどん長くなるにつれて、不安になっていく。
もしかして、本当にマルコを怒らせてしまったのだろうか。
謝ろう。そう思って、私は彼の携帯に電話を掛ける。
「・・・ナマエ、どうかしたかい?」
すぐに出てくれた、携帯越しの彼の声を聞いた途端、私は凄く申し訳ない気持ちになる。
そして、どうして返信してくれなかったのだろうとか、心のどこかで愚痴ってみる。
「・・・・・・ごめんなさい。」
それでも彼には悪い事をしたと思い、ゆっくりとそう言った。
すると、マルコが向こう側で困ったように笑う。
「悪いんだけどよぃ、ナマエ。」
そして、彼は携帯越しで私にこう言った。


I want to you.


「・・・書くのは無理でも、言うのはありかい?」
「あー・・・降参、負けました。」
私もどうやらパイナップルのこと、好きみたい。と、マルコに呟けば。
「じゃぁ、誕生日プレゼントは、おれの名前で好きだ。っていうことになるねぃ。」
と、楽しそうに言った。

(!!・・・ま、マルコが好きだ!)
(ん、おれもだよい。・・・ナマエ、誕生日プレゼント。楽しみにしてるよい。)
(え・・・さっきの台詞で良いんじゃないの?)
(お前が言ったんだろ、『もう少しわがまま言っても良いと思うよ』って。・・・誕生日だからな、うーんとわがまま言おうと思ってねぃ。)
(な、何だって・・・!?)


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