俺には人外の顔馴染みがいる 「塩がない人生なんて、味気ないとはよく言ったものですね。」 「なんだそりゃぁ。」 そう呟いたナマエに返事をしたおれの目の前に、とんと目の前に出てきたのは珈琲。 そしてその横に青白い手で置いたのは、しっとりと焼かれたケーキ。そして砂糖の入ったポット。 「とある童話でそんなことを言うんですよ。・・・それを、ふと思い出しただけです。」 「ほぉ・・・そんな話があんのか。」 「ええ、まぁ。・・・あー、食べたくなってきた!塩コショウで炒めた野菜炒め、甘くない卵焼きとか!!」 「・・・・・・。」 醤油や味噌も塩分入ってるし!!あー!!回鍋肉とかも食べたい!!と大きな独り言を言い始めたこいつに、水を差すように口を挟みこむ。 「でもお前、塩食べられねぇ体だろうが。」 「・・・それでも食べたいんです。死ぬ前にもう一度塩っ気のあるものを食べたい・・・。」 そう言うと、ナマエは土気色した顔を不満そうにしかめた。 「死にはしねぇよ。」 そしておれは、冷たい冷たい頬にゆっくりと指を添える。 そう。こいつは食べれるわけがないのだ。 「お前がそれを口にしたら、元のご主人様の所に帰るだけだろう?」 「・・・本音を言うと、そのあたりはどうでも良いんですけどね。正直モリア様やペローナ様たちが許してくれないと言いますか・・・。」 モリアの所のゾンビなのだから。 「・・・で?今回はこの城までいらっしゃるということは、モリア様に何か用があったのではないんですか?」 「あ?ねぇよ、そんなもの。」 「はぁ。・・・じゃぁ、何のご用で?」 「顔なじみに会いにきた、とかどうだ?」 「こんなゾンビが顔なじみとは・・・もう少し付き合う人を考えることをお勧めしますね。」 「ここは生身の人間が少ねぇから、ゾンビが顔なじみだったとしても仕方がねぇだろ。」 「まぁ言えてますね。」 そう返事をしたナマエを横目に、出されたケーキを口に入れる。 見た目のようにしっとりとした食感の生地は、レモンとリンゴの味がほのかに出ていて、ゾンビが作ったとは思えないぐらいうまい。 「・・・ああ、わかった。」 「?何がですか。」 「こいつを食いに来た、っていうのも一つの目的かもしれねぇな。」 「リンゴケーキですか。私も好きですよ。・・・でも。」 「『でも』?」 「・・・・・・・・・少し塩を入れてたんです。あー・・・塩が欲しい。」 結局そこに行きつくのか。 俺には人外の顔馴染みがいる その後、しばらくしてドフラミンゴさんは窓から飛び立って行った。 名は体を表す、とは良く言うけれど、まさかあそこまでだとは思わなかった。・・・なんて一番初めに空を飛んでいたのを見た時を思い出した。 「おい、ナマエ!!美味しいココアとケーキはまだか?」 「あ、丁度よかった。今からお持ちしようと思ってたんです。出来立てですからね、ココア、温かいですよ。」 そう言うと機嫌がいいのか、ホロホロと笑いだすペローナ様。 それを軽く見た後、お盆に飲み終わったコップ等を載せていく。 すると、それを不思議に思ったのか、ペローナ様の笑い声が消えた。 「ナマエ、誰か来てたのか?」 「ええ、まぁ・・・。」 そう返事をして、私は開けっ放しの窓から、遠くまで広がる海と空を見つめた。 「顔なじみが来ていたものですから。」 back |