ショート | ナノ
keep keep keep!


「こんな所に居たんだ。」
「・・・ナマエか。どうしたいきなり。」
「いやね、渡したいものがあって。・・・それにしても、まさか台所にいるとは。」
「おれだって台所くらいには行く。悪いか?」
「・・・別に台所にいることを悪いって言ってないんですけどー・・・・・・。」

そうぶつくさと文句を言っているナマエは、目的を思い出したかのようにおれの目の前にやってくると、かすかにあの薬品独特の匂いが鼻を掠める。大方、病院でも行っていたのだろう。と思っていると、ナマエが「下、向かないで。」と呟くので、仕方なしに誰もいないテーブルを見つめた。

「・・・・・・っと、できた。」

先程まで聞こえていた布ずれの音が消え、またおれの視界の中にナマエの姿が入ってくる。

「何をしたんだ。」
「何をしたかって・・・うーん、首を触って分からない?・・・ああ、ごめん。触っても分からないね、きっと。」

そう言った後、はい。と渡される手鏡を覗き込むと、おれの首に赤い紐が結んである。

「・・・紐をおれに結んでどうするんだ。」
「ひ、紐って・・・リボンって言ってよ。なんだかその言い方だと自分がすっごい悪者みたいに聞こえる。」
「では、どういう意図で結んだ。」
「それをね、渡したかったの。結んどけばほかの人がホーキンスのこと、盗っていかないでしょ。」
「言っている意味が解らん。」
「えー!だから『ホーキンスは自分のです!』っていう首輪。」
「・・・・・・悪趣味だな。」
「そんな悪趣味な奴に好かれて可哀想にね・・・って、言うと思った?そっちだって自分のこと好きなくせに。」
「取るぞ。」
「取れるもんなら取ってみなよー。」

軽くため息をつきながらも余裕そうなナマエを横目に、首についた紐に、指を引っ掛けようとした。

「・・・・・・・・・。」
「取れた?取れないでしょ?」

悪戯が成功した子供のようににこにこと笑うそいつに、おれは「何だこれは。」と聞いてみる。その紐は指に引っ掛けることも、ましてや触ることもできなかった。その旨を踏まえて言えば、そりゃぁそうだよ。と返事が返ってくる。

「だってそれ、手繰り寄せたらホーキンスに辿り着く赤い糸だから?」

だから大丈夫。たいていの人にはそれ、見えないから。と訳の分からない大丈夫発言を言いながら、ナマエはおれの首元をなぞる。感覚はないが、紐をなぞっているのだろう。


死の宣告という名の愛


「・・・貴方の最期はきちんと私がみる。だから安心して。」
「悪いな。」
「いえいえ、これも仕事のうち!・・・・・・って割り切れたら良かったんだろうけど。」

ねぇホーキンス、長生きしてよ。なるべく長く。私の刃で貴方のその首輪を切る瞬間がなるべく遅く来るように。肩口に頭をつけながら、そう死神は呟いた。



  *  *  *

お題:ホーキンスに台所で首輪をプレゼントされる(する)


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