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今日はまた明ける


俺の能力は知っているのに俺が攻撃を受けるのを見る度に悲鳴をあげ、平気だと言っても「無茶ばかりだ」なんて叱り付けては泣きだす男。俺は能力があるから傷一つとして受けていないというのに、寿命が縮むと言って怒る彼の事は嫌いじゃない。

日課になっているカードをベッドの上に撒いて、今日の運勢を占う。彼の運命でも、己の運命でも今日は悪くはないと出ている。念のため生存率を求めてみたが相変わらず死ぬ確率は低いままだ。

「ナマエ、」

まだ寝息をたてている彼の頬に手を滑らせれば、ちゃんと暖かい。どちらかと言えば、能力で傷つかない俺よりも、生身で替えのきかないナマエのほうが俺にとっては心配ではあるのだが。まぁそう言ったところでナマエの泣き虫が直るわけでもないだろう。

泣きそうな顔はさせたくないものだ、と毎朝恒例のカードで占えばやはり今日も彼は泣く定めらしい。俺が無茶というのを控えれば、多少は未来は変わるのだろうか。それなら、と思ってカードを引いてみたがあまり結果は芳しくない。

「ホーキンス、せんちょ・・・」

眠りながら己の名を呼ぶ男に厄除けの呪いを念入りにかけ、目尻に溜まっていた雫に口づけた。どうやら夢の中まで俺は無茶を押し通しているらしい。

「俺は、死なない。」

だから、泣くな。
日に焼けにくい己の肌と異なる健康的な肌に零れる水滴。できるなら夢の中くらいは、それが幸せなものであればいいのだが。

そして今日はまた明ける

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