一枚のカード とある雑貨屋の前。ふと目に留まったのはヒーローカード。変装までして今日発売の自分のカードを見に行ったのだが、もうそこにはSOLDOUTの文字が踊る。別段それはどうでもいいのだが、新キャラクターのバーナビーのキャラカードが既に売り切れているというのに、コンビを組んでいるはずのワイルドタイガーのカードは二種類とも積み上がっていた。得に旧スーツのカードは余計に売り上げが悪いのか、まだ在庫が有る状況らしい。 じっと見つめる自分の後ろに視線を感じる。ちらりと後ろを振り向くと、中年の褐色肌の男。ヒーローカードの前で舌打ちと溜息。それでも二種類のワイルドタイガーのカードを買おうと手を伸ばしていた。だが手を伸ばしては、ひっこめて、の繰り返し。店の男がイライラと買うか買わないかの選択を男に迫っていた。 「ったく、10枚ずつ!」 「じゃあ私は1枚ずつ。」 横から注文すると驚いたように男の目は見開かれた。反射的ににこりと笑えば、好きなの?なんて軽い口調で聞かれた。 「ええ、私のヒーローは昔から彼なので。」 そういうと男は照れたように顔を赤くして、そっかーなどと呟いていた。よく考えてみれば本当におかしな状況なのだ。 「あなたこそ、そんなに買うって事はファンなの?」 そう問いかけてみれば気まずそうに言葉を濁し、そんな感じだ、なんて答える。髪型も昔のワイルドタイガーのスーツと同じような形状ということはよっぽどのファンなのだろう。 「こんなオッサンがヒーロー好きって引くかな、やっぱり。」 「引きはしませんよ、私も似たようなものですし。」 それにしても、と男は続けた。 「他のヒーローはやっぱり売れてるんだな・・・」 中でもキングオブヒーローのスカイハイと超新星のバーナビー、ヒロインのブルーローズは人気だ。最近出たばかりだから自分のキャラカードが売れているのは仕方のないことなのだろう。 「今日は本当はKAGUYAのカードを見に来たんだけど、もう無かったみたい。」 「あいつな、うん、確かにべっぴんだよな・・・よくわかんねぇけど。」 「私も見に来ただけだから買うつもりは無かったから良いけどね。」 売れていなかったら自分も10枚くらい買って帰ろうと思っていた。 「他のヒーローは好きじゃないの?」 男に問いかけると、他はな・・・という答えが返ってきた。ふとそれを聞き流しながら買ったカードを裏返すとヒーローのデータが乗っていた。 「私これ、集めようかな・・・」 「集めて、どうするんだよ。」 先程計20枚を大人買いした人に言われても説得力は皆無だ。 「とりあえずカード全種集めて、ヒーローにサインして貰おうと思います。」 「そんな都合良くヒーローと会えるかね・・・」 男はカードを財布にしまいながら笑う。 「ワイルドタイガーなら暇だからいつでもサインくらいしてくれるんじゃねーか?」 「そうですね、否定はしません。」 「なんだと!!」 まるで自分のことのように怒る男が妙に可愛らしくて笑ってしまう。 「まるでワイルドタイガーみたいですね、オジさん。」 「なっ、なんで気付いたんだ・・・っ、」 「は・・・・?」 年の割に思い切り夢を見ている心は少年のオジさんに、じゃあ私はKAGUYAです、なんて言うと大人をからかうなと怒られた。 私だけのヒーロー 後日、新ヒーローお披露目会にて素顔を合わせた2人が、お互いに気まずそうに笑いあったのは言うまでもない。 back |