強引なハニートラップ 「よし、歓迎会をしよう!!」 初めにそう言いだしたのはやはり虎徹。それにアントンが乗り、ネイサンが乗り、としている間になんだかんだでみんなが集まっていた。 「で、結局ここなんですね?」 毎回虎徹とアントンが利用しているのだという居酒屋。今回は顔出しをしているバーナビーが一緒なので個室で予約して貰ったのだが。どうやらバーナビーは気に入らなかったらしい。 「良いじゃねぇか!お前が今回主役じゃねーんだから、文句言うなよ!」 「名前さん、あなたももう少し困ってるなら言ったほうが・・・!」 「こんな場を設けて貰えると思ってなかったので、少し緊張してしまって・・・!嬉しいですよ?」 目の前に座るバーナビーに笑うとそっけなく返されてしまう。 「怒らせちゃいましたかね・・・?」 隣のカリーナにこっそり聞くと、いつもあんな感じだと返された。しきり出す虎徹とは別に、スカイハイがまめに注文を各自に聞いて回る。 「ということで、男はみんなビールで良いよな?女子はどうする?」 「ということで、これお願いするよ!」 「ったく、みんなビールでいいじゃねーか!!」 「まぁまぁ、虎徹、落ち付けって・・・。」 男共が小さな諍いをしている間に、残ったメンバーは各自に話に花を咲かせた。カリーナとホァンが2人で会話を始めてしまったので、イワン君と話していたのだが、どうも目の前のバーナビーの視線が刺さる気がしてならない。料理と酒が運ばれてくるようになって、場の空気も随分緩んできている。それなのにバーナビーの座る一角だけは一線引かれていた。 「そういえば貴女、彼氏とか居るの?」 ネイサンがワインを片手に興味津々と言った顔で聞いてくる。 「私も気になる!どうなのよ!」 今回ばかりは酒を飲んでいるらしいカリーナは既に酔いが回っているようだ。ホァンに救いを求めたものの、既にお子さまは料理に夢中で聞いてすら居ない。 「特には・・・居ないですけど、」 「またまた!隠さなくても良いのよ、みんな同じヒーローなんだから!」 「いや、なんていうのか、自分結構人への接し方がよく分からなくて・・・」 そういう展開に発展しないのだと言えば、ネイサンが日本人は押しが弱いのよね!なんて軽口を叩く。 「俺は押し弱くねぇぞ、コラ!!」 「あんたには言ってないのよ、馬鹿!」 虎徹が口を挟むと同時に全体から野次が飛ぶ。それに渋々虎徹はビールのグラスにまた口を付け始めた。 「ということは、押しの強い人が良いわね!今度誰か紹介してあげましょうか?」 「え、あの・・・お気持ちは嬉しいんですが、」 「遠慮しないの!出会いって大切よ!!」 そこまでネイサンが言い切った所で、机に酷い振動と音が響いた。 「明日取材もあるので、僕はこれで失礼します。」 瞳が明らかに宴会、というムードではなく、怒っているような顔。 「え、あの・・・?」 止めるべきじゃないのか、という目をして虎徹をみたが、虎徹は放って置けと手をひらひらさせた。 「やっぱりあいつ性格悪い。」 「気難し屋さんねぇ、もう。」 カリーナとネイサンが出ていった戸口を見るものの、止める気配は感じない。 「私、ちょっと行ってきますね!」 扉を出る瞬間、戸口に一番近い席に座るアントンから苦笑された。 「お前も、大概良い奴だよな。」 「ありがとうございます。」 店の扉を出るとまだ帰っては居ないようで、駐車場までの道を歩いている姿が見えた。 「バーナビーさん!」 先程煽った酒のせいで少し低い声で呼んでみるものの、彼の足は止まる気配は無い。アルコールにふらつく足で、走って彼の服の生地を掴む。 「帰っちゃうんですか?」 「ええ、面白くなかったので。」 なれ合いはそもそも嫌いなんですよ、という彼の瞳はなんだか笑っていた。 「貴女も一緒に、帰りますか? 送っていきますよ?」 「え、あの・・・」 「ハッキリ言って頂かなくては解りませんね。」 にっこりと先程とは違い、笑顔で対応されるとどう対処していいのかよく分からなくなってくる。狼狽えていると、いつも虎徹が乗っているサイドカーにひょいと乗せられる。 「・・・え?!」 帰ること決定なのか、と思ってとりあえず断ることも出来ずに携帯を覗き込む。カリーナからの着信。それに気付いたバーナビーが携帯を自分の手の中から掬い上げる。 「申し訳有りませんが、彼女が酔っているようなので一緒に帰ります。」 勢い任せにそれだけ電話口に話すと、ぱちんと携帯を閉じて手の中に返してくれた。にっこり笑うバーナビーの顔に、ちょっとした身の危険を覚えた。降りようとサイドカーの扉のドアに手をかけた上から鍛えられた腕に阻止される。 「強引な男は嫌いですか?」 捕食者の目をした草食動物はそういって月夜に笑った。 強引なハニートラップ back |