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理由なんて至極簡単


「なぁ、なんでお前らそんなイチャイチャしてたの?」

トレーニングルームで集まっているときに虎撤がふいに口を開いた。みんながみんな疑問を頭に浮かべて首を傾げた。

「一体誰のことをいってるの、タイガー。」

ブルーローズが少しイライラしながら虎撤に聞き返し、アントニオはまさか自分とネイサンの事か、誤解だ!と大きく弁解を始めていた。

「お・・・俺はだな、普通に胸のあるおネェちゃんが好きだって、知ってるだろ虎撤!!」
「ったく、お前じゃねーよ!! キースと名前の事に決まってんだろぉ?」

アントニオの弁解にネイサンが避難の声をあげるも、恋愛話にすぐ食らいついてくる。くだらない、という顔をしていたバーナビーでさえ少し気になるようで、トレーニングをしつつ、視線をこちらに流していることから参加はしないものの興味はあるようだ。

「え? ワイルドくん? え?」

名前を呼ばれた天然ヒーロースカイハイに限っては、理解しているのかしていないのか、きょろきょろしながら周りの様子についていけてないといった感じである。鈍感ヒーローのKAGUYAに至っては、頭で虎撤の言葉の意味を理解したくないようで、

「イチャイチャ・・・?」

と俯きながらひたすら難しい顔をして考え込んでいた。その様子にネイサンとブルーローズが虎撤の勘違いじゃないかと詰りに掛かる。まぁ誰しもまさかスカイハイに限って恋愛関係とかそういう事にはならない、たとえ鈍感な名前が気付いてないと言っても、周りの自分たちでさえ気付かないのに、虎撤が誰よりも真っ先に気付くとは思っていなかった。

「どうせ、また余計な勘ぐりで勘違いしてるとかそう言う事でしょ?」
「いや、ちげーって!いや、今日はさ、早くトレーニング来たんだけどよぉ・・・」

トレーニングルームに来る順番は都合によりけりだが、大抵来る順番としては早めに来るのがスカイハイ、KAGUYA、スケジュール通りのブルーローズ、ドラゴンキッド、バーナビー、サイクロン、遅れてくるのがロックバイソン、ワイルドタイガー、ファイヤーエンブレムの大人組。今日はうっかりKAGUYAのすぐあとに虎撤が早くやって来たのだが、そこで異様な光景を見ることになった。

「そんで、俺はそこで見ちゃったワケだ・・・」

ちらりと虎撤が2人をみやるが、2人はなおも首を傾げるばかりだ。

「疚しいことなど何も無い、そして心当たりがない!」
「・・・じゃあキスしてたのは何だったんだ、キース?」

ネイサンが虎撤の言葉に口笛を吹いた。

「キス・・・? ああ、あれの事だろうか?」
「ええ、あれですね、間違いなく。」

思った以上に2人は言い当てられたというのに顔色に変化がない。

「あれぇ〜? 照れるとかそう言う事ないの?おじさん最近の子はよくわかんないなぁ・・・」
「どうせおじさんのことだから、勘違いとかしたんでしょう。人騒がせな・・・」

トレーニングを切り上げて、会話になんだかんだで知らない内に混じっていたバーナビーが避難の声を上げる。

「キス、したよ? ワイルドくんはよく見てるんだね!」 

にっこりとそのバーナビーの声を遮るように朗らかにスカイハイは笑った。その声で周りの空気が一気に固まる。

「ちょ・・・誤解を招くいい方は・・・ちょっと・・・」
「え? 何か悪いこと言ったかい?」
「言いましたよ!!あれ、挨拶ですよね、何誤解招くいい方を・・・!」

ほら、アメリカ人特有のスキンシップ精神ってやつですよね!と賢明に弁解に走る名前をブルーローズが肩を叩いた。

「あえて言わせて貰うけど、挨拶でも流石に場所によるわ。」
「・・・場所、ですか?」
「流石にキス自体も親しい間柄しかしないけど! ほっぺとかよね、ね?」
「・・・そうなんですか?」

キースの方をちらりと見遣ると彼は笑いながら、爆弾を投下した。

「挨拶? 違うな、そしてキミは勘違いしている。」

キースが名前を愛おしそうに見つめる視線から、虎撤は嫌な予感を隠せない。何処まで行ってもスカイハイは一直線で素直な男なのだ。

「私がしたかったからに決まってるじゃないか!!」

流石キングオブヒーローは何処か違う。そう一同は思ったのだった。それと同時に名前が顔を真っ赤にさせてトレーニングルームから消えた。勢いよく閉まるドアを横目にキースは、またどこかずれた発言をしてバーナビーの逆鱗を撫でたのだった。


キスの理由なんて至極簡単


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