特性 頑丈 「うぉおおおおお、負けないでござるぅうううう!!!」 「よしっ、折り紙! 援護は俺に任せろぉおおお!!」 「ちょっと、バイソンさん・・・もう少ししっかりサポートお願いします!!」 「しゃーねぇだろうが、サポートは俺は向いてねぇんだよ・・・!!」 部屋の中で遊んでいるのは一見、おっさん2名と青年と女性が一人。そして白熱しているのは何を隠そう、日本製の格闘ゲームである。持ってきたのはやはり日本好きのイワンなのだが、大人の顔をした子供の虎撤がそれに便乗して、ゲームが好きな名前が酷く楽しそうに協力プレイだ、と言い出すから結局この流れでゲームすることになった。まぁ人数が4人まで可能なゲームだったこともあり、当然の流れなのだろうが。どちらかというと手先が不器用な自分にはあまりこの手のコンボ技術を駆使して戦うゲームは向かないようだ。サポートならと思ってみたものの、どう考えても戦力外の状態に置かれてしまっている。 「イワン、もう一回!!」 「まだやるのかよ!!」 負けず嫌いの火がついてしまった名前は二人に勝てるまで勝負を挑む事に決めたようだ。そして名前のお願いに弱いサイクロンも手伝って昼から始めたゲームだったのだが、気付けばもう既に夜に差し掛かろうとしていた。流石の虎撤もそろそろ飽きてきてしまったようで、帰るきっかけを捜そうとしていた。 「もう一回、もう一回だけ!!」 「でも、そろそろ帰る時間・・・あ、ゲームは明日で構いませんので。」 まだまだ遊び足りないと言わんばかりの名前にそのままゲームを残して折紙は帰ることにしたらしい。口実が出来たと、虎撤が便乗して帰る支度を始める。 「じゃあ、俺そろそろ折り紙送って帰るわ・・・キリの良いところでおまえも帰れよ?」 「えー・・・タイガーも帰るの・・・?」 名前が明らかに無意識なのだろうが、上目遣いに虎撤を見上げる。それに一瞬くらりときたらしい虎撤も、間をおいて再度帰る用意を始める。 「ちぇー・・・! イワン、次には負けないんだからね!!」 「今度も負けませんよ。」 「はいはい、帰るぞー。」 人の家、だというのに実家から自宅に帰るような感じで、虎撤がひらひら手を振ってドアを開ける。 「じゃーな、アントン。なるべく早い内に名前も送っていけよー。」 「そうですよ!仮にも女性なんですから夜道は危険ですからね。」 「おいおい、夜道より俺の方が危ないとかねーのかよ、虎撤。」 「あー、アントンも男だもんな。でもやめとけよ。お前は狼になるにはちっと老けすぎだ。」 俺の気持ちを見透かしてか、ただ茶化しただけなのか定かではないが、しっかりと自分を見据える虎撤の目はあきらかに釘を指すそれだと実感した。変なところで長いつきあいの親友は、確かに賢い男なのだった。 「馬鹿、さっさと帰って寝ろ。虎撤は遅刻するとまた今日みたいに相棒に叱られるだろ。」 「あー・・・バニーちゃん怖いもんな。じゃあまた明日な!」 「お邪魔しました、アントニオさん。」 「じゃーね、イワン。虎撤さんもまた明日!」 イワンが律儀に日本流にぺこりと挨拶をして先に帰ろうとする虎撤を追いかける。ぱたぱたという成人手前の男に言うにはすこし不釣り合いだが可愛らしい足音がマンションの廊下に反響する。エレベーター手前の小階段を下りる足音を確認してから扉を閉めると、既に名前はゲームの前で正座していた。 「アントニオさん、特訓しましょう!!」 「お前もそろそろ帰れよ・・・」 「私達の敗因はきっとチームワークです。アントニオさんがもう少し上手くなればイワンには負けません。」 確かに今日の対戦を見る限り実力は名前とイワンは僅差であった。足を引っ張っているのは多分、というか確実に自分なのだろうということは自覚していた。 「だから、特訓ですよ!」 簡単なコンボさえ決まればそれの繰り返し。タイミングを合わせれば虎撤なんて敵じゃない。そういう名前の目はあきらかに本気だった。 「・・・あと1時間だけだからな。」 携帯のアラームを一時間後にセットしてゲーム機の前にどかりと腰を下ろす。 「わかった、それで、俺はどうしたら良いんだ?」 「そう、まずはこの "左右左" の簡単なコンボから行きましょう!」 すくりと立ち上がったかと思えば自分の背中から回り込んでコントローラーを握る手の上から指示を促す。どう考えても体格の小さい名前と自分ではあきらかに密着してしまうというか、この姿勢は流石にやばい。コントローラに腕を伸ばすが故に胸が背に完全に密着してしまっている。先程の親友の言葉が頭に反響するのだが、如何せん体は従順である。歳の関係もあるのか勃ちはしないものの、身に覚えのある熱がずくりと体に走る。ふるり、と体を震わせて熱を逃がそうとするも、それすら彼女は許さないつもりらしい。 「ねぇ、聞いてる?」 「あ・・・ああ。でも、後ろからだと少し体制的に無理があるだろ?」 自分の心臓と保身の為に、横に来るように言えば彼女はまた予測の斜め上の行動をとる。 「後ろじゃなければ良い?」 ふわりと腕を自然な動作で持ち上げ、さも当然のようにあぐらを掻いていた自分の膝の上に座り込む。よくいえば親子のような姿勢。だからといって童顔をよしとする日本人だとしても相手は子供ではなく女性だ。それに問題なのはそれだけではない。ふわり鼻腔を擽る甘い香りに完全に思考回路がショートしてしまいつつある。 「それで、やばくなったら "RLRLYX" で、味方全回復。」 指の上からボタンを押す指が酷くやわらかいだとか、長い睫毛だとか。画面では必死にキャラクターが技をくりだして居るのだが、如何せん目がそちらを向くことを拒否していた。 「そんで、これが奥義! "左上右下左" ・・・って聞いてないね。」 「おまえ・・・こんな状況で、ゲームなんて出来ると思ってんのか・・・?」 完全にスイッチが入ってしまったのは己の体だから、一番よく分かってしまっている。彼女は触れてこない物の、あきらかに背中にそれが擦れてしまっているのも分かっている。いい年して何やってるんだと言われても仕方ないが、正直触れないで帰って欲しいというのが本音だ。 「こんな状況・・・って、ああ、その不穏な堅さのあれです、って、あれ?」 ぼかしぼかし言ってるつもりなのだろうが全然ぼやけていないというか、正直本人も戸惑っているようで。俺も正直困っているといっても、事態は一向に進展はしないのだろう。 「あー・・・まぁ、堅いのは特性上仕方ないですよねぇ・・・」 問題はその場所なのだが、と彼女の目線が訴えているのだろう。同じ方向を向いているので彼女の目は見えないが、長い睫毛が何度も上下に揺れる。コントローラーを持っていた指が離れて、俺も指からコントローラーが滑り落ちて、落下したコントローラーが床に当たって小さく音を立てた。 「あ、私、かえ・・・帰りますね!!」 「お、おう・・・」 送っていこうかなんて言えなかった、いや、言えるわけがない。返事をして、部屋から気まずそうに立ち去る彼女に冗談もかけれず、どう弁解したらいいものかすら思いつかなかった。玄関の近くから小さく、「お邪魔しました、」と彼女の声。それに返事すらかけれず、少々頭を抱えたくなった。 テレビの画面では電源を切り忘れたゲームのキャラクターがまだ動いていて、先程戦っていた敵にノックアウトされて吹き飛ばされるシーンが映っていた。 パーフェクトコンボでノックアウト back |