ショート | ナノ
ニンジャナイト


「KAGUYA、だってさー。名前!」

日本の童話のかぐや姫から抜粋した名前に落ち着いたらしいという話を彼女から聞いた。

「なんか他の人達とちょっと違った感じがするけど・・・まぁ、良いよね。」
「結局自分で考えた感じですか?」
「うーん、途中から。」

聞けば、女性ヒーローでイメージ能力も実に曖昧な彼女にモチーフはちょっと企業も厳しかったのだろう。その長い黒髪と日本人特有の幼いような大人びたような曖昧さを童話の姫の名前から拝借したという所だろう。

「始めすごい酷かったんだよ、なんちゃらプリンセスだとか、ブラックなんちゃらだとか。」

聞く限りの企業に呈示されたネーミングは少し恥ずかしかったので妥協した案がこれだとか。
「ローマ字、でKAGUYAって言うのはあれですよね。受けも良さそうですね。」
なにせKAGUYAは日本語の響きがある。話題性としてはぴったりだろう。
「うーん、もうすこし長くてもよかった気がするけど。シンプル イズ ベストって言うしね。」

それになにより自分の名前の発音を気にしなくて良いのは楽!と彼女は笑った。そこまで酷い発音ではないのに、日本人はとても努力家である。

「結構綺麗な発音だと思いますけど・・・まぁロシア人の僕が言ってもあれですが・・・」
「え・・・なに、嬉しい!」

えへへ、と子供のように時折見せる笑顔はやはり年齢よりも若く見える。タイガーもそうなのだが、日本人だからというより中身が少年少女のようなのが原因だと気付いた。
だってたまに見せるタイガーさんの表情はとても大人びているし、事件の情報に耳を傾ける彼女は酷く大人びた顔をしていたから。

「イワンくんに言われると自信つくから、本当ありがと。」 

ぎゅっと抱きしめられた腕はやはりヒーローになると言っても華奢な女性の腕だ。能力的には彼女の方が実践向きだといっても、それ以外の時は普通の女性なのだ。自分はまだまだ発達途中だとはいえ、それよりも細い腕、狭い肩幅。

「ん・・・あ、ごめん、ごめん。 スキンシップ苦手?」

黙り込んでずっと考え込んでいただけなのだが、言葉にされると途端に気恥ずかしさを覚えた。

「だ、大丈夫で、ござる!」
「本当?」

先程触られた箇所が熱い。すぅと息をついてみたものの、収まるどころか心臓は早鐘を打つ。話を変えよう、そうしよう。あまり酸素の足りていない脳味噌で考えてみて一番ベストな方法を実行に移す。

「名前さん、スーツの方はどうなりました?」
「あ、スーツ? 完成してたよ。」

どんなデザインでしたか?なんて聞けば、唇に指先を押し当てて、「内緒、」なんて子供のように笑う。

「少し教えてくれたっていいじゃないですか。」

他に話題も浮かばず、食い下がってみれば内緒なはずの言葉はあっさり零れる。

「日本風の、なんかそれっぽいやつ。」
「ああ、まぁヒーロー名からして日本風になるとは思ってましたが。」
「イワンくんと同じ日本風で、っていったら完全に露出の激しい着物みたいなデザインです。」

「・・・それって、」
「そう、お揃い! タイガーとバーナビーみたいなコンビじゃないけど、服くらいはね。」

嫌だった?と尋ねる彼女に、もし言えたなら言ってやりたかった。それほど嬉しいことはないのだと。でも自分の口からはどうしても気恥ずかしくて、素直に言葉は出来なかったのだけれども。

「不謹慎だけど、ちょっと早く出動したいと思わない?」
「初めての出動は危険ですから、お役に立てるか不安ですがサポートします、」
「ありがと。 なるべく迷惑かけないようにするよ。」

その笑顔を、貴女を、「僕が 守ります」なんて言葉に出しては言えないけれど。


手裏剣背負った騎士の決意


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