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おやすみヒーロー


「きました、ニューアイドル!! KAGUYAだぁあああ!!!」

雨の中、颯爽と時間切れのワイルドタイガーを追い抜き、犯人を確保ぉおおお!!

「ああ、また貴方が遅いから、ポイント取られてしまいましたよ。」
「うっせーな!!時間切れなんだよ!」

後ろから追いついた相棒が言葉で詰るが、バーナビーだってもう既にハンドレットパワーは切れている。だが、彼と自分が違うのはやはり、ポイントの差。

「僕は先程、救助してきましたから。今日は救助ポイントだけですけど。」
「へいへい。」

そもそもポイントなんて、興味はないのだ。自分がヒーローやりたいから、やっているだけなのだから。

「おい、ヒーロースーツでも濡れると風邪引くぜ、KAGUYA!!」
「え、ああ、今いきますから。」

犯人を片手に、名前が振り向く。その顔に張り付いていたのは、小雨に濡れた前髪だけではなく。空しい作り物の笑顔があった。

「おい、どうした?」
「何でも、ないですから。」

そういって、笑う彼女の腕を掴みあげる。驚いた顔をした彼女の瞳は、酷く不安そうな色を称えていた。

「バニー!!」

カメラの居なくなった事を確認し、名前の手から犯人をもぎ取り相棒に投げる。

「なにやってるんですか、これはKAGUYAさんのポイントでしょう?」
「ポイントとかじゃねーよ!それにもうカメラ回ってねーのは知ってっし!!」

それにもう今日の集計終わってしまってますから!なんて叫ぶ相棒に舌打ちする。ハンドレットパワーなんてなくても、なんなく担ぎ上げられた彼女の体。

「今日KAGUYA調子悪いみたいだから、犯人警察に引き渡しといて、バニーちゃん!!」

明らかにさっき、タイガーよりも華麗に犯人を捕まえたKAGUYAが体調不良なんて、嘘もいい加減下手だな、と自分でも分かっていたのだが理由など他に思い浮かばなかった。言わずもがな、犯人をキャッチした相棒からは避難の声が挙がる。

「兎に角、後まかせた!!」
「ちょっと、おじさん!!」

ふわり、と目が合った途端笑った彼女は、どうやら全てを話してくれるつもりは無いらしい。新人の精神的なケアも、年長組のお仕事に他ならない。話して貰えなくても、一緒に居るだけで休まる時だって有る。お節介だ、と言われる種類のそれを最大限利用する事で、楽になる奴が居るなら、俺は全力でそれを行使する。 なぜならヒーローも市民の内の一人なのだから。全てを救えないで、ヒーローという名前を掲げるつもりは俺には毛頭なかった。

「大丈夫ですから。」

そういって強がって笑う彼女は、その表情とは違い酷く脆く見えた。

「ああ、もう!! 俺が見て、大丈夫じゃねーから言ってるんだよ!!」

担いだまま、バニーのバイクの助手席に名前を放り投げて、エンジンをかける。後ろから怒る相棒の声が聞こえたが、それすら今は聞こえない振り。

「え、ちょっと、困ります・・・!!」

既に走り出してしまったバイクから降りることも出来ず、かといって能力でバイクを止めることもせず、名前は助手席で黙ってしまっていた。

「まぁ、そう拗ねるなって。」
「拗ねてないですけど。雨で寒いので帰りたいです。」

あと、すごい目立ちます。まだお互いヒーロースーツを着たままで、郊外とは言えバイクを走らせれば、嫌でも好奇心と興味といった視線が集まってしまう。

「すまねぇなぁ・・・今日だけ、おじさんにつきあってくんない?」
「・・・仕方ない、ですねぇ・・・」

何も言わなくても、そうやって自分をあまやかしてくれる彼の心が嬉しくて、何も聞かれないことを良いことに、そのまま自分ごと誤魔化してしまうのだ。


今日だけはお休み、ヒーロー


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