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冷たいアイスはいかが?


「あっつ・・・」
「言わないで下さい、余計に暑くなります。」

そうやって憎まれ口を叩きつつも、きちんと返事だけはしてくれる彼。ふわふわと揺れる彼の軽い金髪もいまは暑そうだな、と思うだけに止める。

「それにしても、あっつい・・・カリーナつれてきて・・・」

能力はそんな為にあるんじゃないですよ、と横で小言を言うバーナビーに、力無い声で、冗談です・・・なんて呟けば溜息の音がした。

「もう、仕方ないですね・・・アイス、買ってきてあげますよ。」
「流石、バーナビー!! イケメン!!」

アイス、という単語を耳にした瞬間、酷く胸が高鳴る。この暑いコンクリート地獄の町並みの中では、節電中とはいえ空調の緩く効いた室内の方が幾分か涼しい。アイスはビル内ではもちろん売っておらず、外の近いコンビニまで走るにしても、多少なりとも外の暑さを体感する羽目になる。

「何言ってるんですか、ついでですよ。」

僕がアイス食べたかったんです、と少し目を泳がせながら言う彼に、掌をひらひらさせながら送り出してアイスを待つ。酷くけだるそうに髪を掻き上げながら、扉の向こうに消えた彼。(あ・・・面白い。)扉が閉まった瞬間に、持ち前の脚力を駆使して走り始めたのだろう。 バーナビー特有の軽快な足音が遠ざかっていく。

「愛されてる・・・なぁ・・・?」

貴方の為ですよとか言われたら、それはそれで何か酷くリアクションに困るのだけれども。あそこまで典型的なツンデレだとこっちもすごく面白い、と言わざるを得ない。
後は変な所で変な迫り方をしてこなければ、かなり良い。

「何で・・・疑問系なんですか?」

少しだけ息を切らせながら、扉に寄りかかっている彼。兎の耳は長いから、彼の耳も地獄耳なのかもしれない。にこり、と笑う彼の手には水色のソーダアイス。

「わざわざ僕が走っていうのに・・・流石に今のは傷つきますよ?」

近づいてきたから、また何かされるのかと身構えてしまう。その反応に彼は苦笑して、拗ねたような反応をしながらアイスを差し出す。

「ごめん・・・ありがと。」
「ああ、これじゃつまらないですよね。」

差し出されたアイスが自分の手に届く前に、取り上げられる。

「2本とも食べるの?」

不満げに声を上げれば、彼は無言で既に封を切っていた一本目のアイスを口に銜えた。ぱり、と2本目のアイスのパッケージの封を切る音がして、一本が目の前に差し出される。差し出されたアイスは室内の温度ですこしずつ溶けだしていて、差し出されたアイスの棒軸を掴もうとしたら、避けられた。

「銜えてくれたら、差し上げますよ?」

もう片方の手で、自分のアイスを食べながら意地の悪い彼はそう言う。これこそがきっと「性格悪い」の典型的パターンなのだろう。じりじりと考えている時間に、さらにアイスは溶けだしていく。そして涼しそうな顔をしてアイスを囓る彼。

「どうします? 溶けちゃいますよ?」

にっこりと笑う彼に、内心苛つきながらアイスに舌をはわせるように舐めれば、満足そうに細められる瞳。

「うわ、想像以上に・・・」
「大体言いたいことは解るけど、黙れ。」


冷たいアイスはいかが?


がりん、とアイスを囓り折りながら氷の感触を愉しめば、何を想像したのか、酷く青い顔で男は引きつった笑いを浮かべた。

ざまあみろ!!

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