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おい、ちょっとどういう事だ


テレビテロップはテーマパークのハロウィンライトアップをドラマの合間に何度も流してくる。その度にオレンジのライトが画面をキラキラと彩っている。トレーニングルームにて走り込みをしながら眺めていれば、横から重い溜息。

「・・・どうしたの? テレビ消した方が良い?」

機械の速度を徐々に下げて、一旦ストップして溜息を付いた男に近寄れば、顔をあげてこちらを見るのは綺麗なオリーブ色の2つの瞳。それになんだかいつもの覇気がないように感じられて、より慎重に言葉を繋いだつもりだった。

「えっと、ハロウィンが嫌い?」
「いいえ。 正確には、僕の誕生日が憂鬱なんです。」

そう言い切った男は、軽く金髪をゆらしながらも憂鬱な笑みを浮かべている。嫌味なことに何をしても絵になる男だ、と苦笑してから原因に更に疑問を浮かべる。誕生日なら何故、憂鬱になどなるのだろう。じっと彼を見つめてみれば、なぜだか視線を逸らされてしまった。

(もしかしてこれは・・・祝って欲しいという合図・・・!)

実はこの勘違いは先年度、バーナビーの相棒の虎徹がやっているミスになるのだが、当時ヒーローでなかったKAGUYAには知る由もない。というかハロウィンがバーナビーの誕生日だというのも初耳である。そういえばなんだかんだでバーナビーと他のヒーローとの間に壁がある節がある。それはなんとなくヒーローに就任した時から感じていた事ではあるので、そこに名前は何の疑問も抱こうとはしなかった。

(これは虎徹さんに相談してみたら良いのか・・・?)

パートナーがパーティー開いて欲しそうだよ!とか言えば彼ならどうにかしてくれるだろうか。適当にバーナビーの方も現在の会話を濁して終わらせてしまったので、休憩ついでに既に休憩室にいた虎徹さんにその事を言えば、お節介の彼らしくないちょっぴり苦笑した顔で、投げやりな回答を頂いた。

「んー・・・、あいつすっごい豆腐メンタルなんだわ、どうしたもんかなぁ・・・」
「そこを皆さんで盛り上げるんじゃないんですか! 誕生日ですよ?!」

お祝いして当たり前じゃないですか、と言いきってみた物の、
虎徹さんのほうは少し頭を掻いて、歯切れの悪い擬音であーだの、うーだの呟いている。

「・・・っていうかプレゼント明日なのに用意できてないんですが。」
「あー・・・うん、取りあえずお前に言い忘れたのは悪いと思ってる、うん。」
「皆さん知ってるってことは用意できてないの自分だけじゃないですか・・・!」

まぁそういう事になるね・・・と苦笑して笑う虎徹の顔にはどうにも真剣さが足りないと名前は、少しだけ苛つきながら、これからどうしようかと必死に考えていた。

「あ、じゃあ、あれでいいじゃん!!」
「あれって何ですか?」
「俺が去年やったんだけど、ポイントとか譲ってみたり?」

去年を思い出しながら虎徹は首を捻り、それがいいんじゃないかと笑って見せた。確かにバーナビーさんは資産家の息子でお金で手に入るものなら大抵自分でどうにかできてしまうから、そういうものより思い出的なものの方がいいのかなぁと思っていた節もある。

「でも、バーナビーさん、最近あまりポイント重視してないですよね?」
「あー、そっか。環境が今はちがうもんなぁ・・・」

またも2人でぐるぐると頭を廻らしていたのだが、ふと虎徹が顔をかがやかせる。

「あっ、おじさん良いこと思いついちゃった!」

虎徹さんが思いついた内容を聞き終わるかどうか、と言ったところで、毎回おなじみになってしまっているエマージェンシーコールが室内に響き渡る。

『ヒーローズ!出動命令よ! 場所はイーストブロンズステージ・・・・』

コールを聞いてトレーニングルームにいたイワン、バーナビー、アントニオがばたばたと休憩室を横切る際に、こちらに気付いて、出動を急かす。少し以前より穏やかに虎徹を急かすバーナビーの声を聞きながら、反対方向に位置されている更衣室に自分も向かう。今、自分の頭に浮かんでいるのは申し訳ないが犯人の事ではない。それはもちろん先程虎徹に言われた内容について、である。ポイントにしても、虎徹のアドバイスにしても、どちらにしても自分には色々難しい。バーナビーとはまた違った原因で憂鬱になりながら、ざっとアンダーウェアに着替えて現場に直行した。

『・・・おっと、最後の犯人を追いつめたのはKAGUYAーー!!』

捕獲した時点でポイントが確定するので、犯人を譲るのであればバーナビーにどう渡すのかが重要になる。コンビのタイガーであるならそれもコンビ愛になるのだが、自分がやるのはどうにも何か違う気がする。とりあえず追いつめてみたはいいが、この状況をどうしようか。考え込みながらぼーっとしていれば後ろから声が聞こえる。

「KAGUYAさん、犯人から目を逸らさないで!!」
「えっ、」

イワンの説破詰まった声を聞いたとき、思ったよりも犯人の位置が自分に近い位置にあった。手元には鈍く光るナイフが街の明かりを反射して銀色に光っている。能力を発動するには犯人との距離が近すぎる、と頭で思ったよりも冷静に判断を下し、身を捩ってみたものの、ナイフの軌道からして完全に避けられはしないだろうなと衝撃に意識を備える。

「名前さん!!」

視界に一足飛びに入ってきたのはピンクの光。

「・・・バーナビーさん!!」
「まったく、おじさんじゃあるまいし。 何やってるんですか!」

犯人を素早く確保したバーナビーに凄い剣幕で怒鳴られながら、バーナビーの腕に内蔵されている時計をみればあと1秒で10月31日。今日のポイントは譲るまでもなくバーナビーが最終的に確保してしまった。(プレゼントにならない所か助けられてしまっているのでマイナス事項だ)よって、自分に残された選択肢ってのはほとんど残されていないわけで。

「・・・って聞いてるんですか? 心配させないでください!」
「・・・ハッピーバースディ、バーナビー?」

かちり、とデジタル表記の数字が変わる瞬間を見計らって言った言葉に、バーナビーはあっけに取られたように停止してから、少しだけ苦笑した。

「ポイントは、プレゼントにはなりませんよ?」
「なんでもお見通しなんですね・・・虎徹さんからでも聞きましたか?」
「いえ、大体は勘ですけど。 だいたいそんな所だろうと。」
「プレゼントなんですが・・・「さっきのお祝いだけで十分ですよ。知らなかったんでしょう?」・・・あっ、」
「今年はプラスに考えて誕生日会でもなんでも楽しんでみようかと思っていたんです。」

そう満足そうに言うバーナビーにこれ以上なにか言うのははばかられたので、虎徹さんから教えて貰った魔法の言葉は言わなくてもいいな、と勝手に結論付けた。 帰りましょうか、とバーナビーが振り返った所で相棒のタイガーこと虎徹さんがニヤニヤしながら、バーナビーの肩を抱くようにして気持ち悪い口調でバーナビーの頬をつついた。

「はっぴーばーすでー、バニーちゃん!! で、名前からプレゼントは貰った?」
「ええ、頂きました。」
「そっかそっか!今年は俺からはケーキとかだけだから、俺も"俺がプレゼント"とか言ってみようかな!」

隠しておきたかった魔法の言葉を、颯爽とばらしてしまった男に頭が痛む。横では目を見開いたバーナビーがこちらを見つめて口を戦慄かせている。

「えっ、ちょっと名前さん、どういう事ですか・・・?」
「えっとー・・・!! さぁ、帰りましょ!! パーティやらなきゃ!!」


おぃ、ちょっと、どういう事だ!


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