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ミルフィーユは気むづかしい子


『 ミッションクリア、 コンプリート 』

最新技術の3Dシュミレーションが入ったと聞いたので、我先にと大急ぎでトレーニングルームにむけて足を向けたのだが、そこには既にうっすら汗をかきながらシュミレーションを終えたバーナビーがいた。内側からは見えない特殊ガラスごしに彼が背中で息をしているのが見える。頑張ってるなぁ、と扉から出たところに声をかけてみれば、酷くびっくりした様子で停止されてしまった。

「おーい、バーナビーさん?」

お疲れかなぁ、と聞けばわざとらしくタオルを首筋から口元へ移動させる。

「・・・名前さんですか。」

タオル越しにもごもごと言葉を吐く彼。最近はかなり周囲にもうち解けて来ており、こういう表情もあまり珍しくはないものの、名前としてはやはりまだ、テレビで見ていたバーナビーのイメージが強くてびっくりしてしまう。

「ミッションクリア、おめでとうございます。 ・・・どうでした?」

私も今からチャレンジするので楽しみです、と告げれば顔をさらにほころばせるように笑った彼は、ネタバレは良くないですからといいつつも、気をつけるポイントを何点か簡単に教えてくれた。まぁミッションは何種類か追加されているので、自分の行うミッションが同一である可能性は無いのだが。それでもヒーローとして注意するべき点はどんな場所でもどんな場面でも同じである。

「まぁ、僕でも出来ましたし。 名前さんなら大丈夫ですよ。」
「・・・うーん、KOHに言われるとなんだか複雑ですけど、頑張りますね!」

頑張ってください、という声援を背中越しに受けて部屋に入れば、準備済みだったのか、すぐにミッションが開始され視界が一気に外のような外観に様変わりする。ぐるりと見渡したところ、どうやら今回は寂れた工場跡のようだ。ミッション自体は敵のアジトに潜入しての人質確保、敵の捕縛なのだが、難易度が上がるのは敵方の人数だけでなく、そこの工場が元火薬工場だというオプション。性能が良いのでリアルな爆風も再現できるとのこと。なかなかに難しい内容に四苦八苦しながらも、どうやら人質を連れて脱出できた。ミッションコンプリートの機械音声をイヤホンで聴けば、視界が元の白い部屋に戻る。壁に掛けたタオルで汗を拭い、外へ一歩出てみればそこには笑顔のバーナビーさんが待っていた。

「名前さん、お疲れさまです。」

ひょいっと軽く投げられたビタミンウォーター。それを利き手で受け取れば、にっこりと微笑まれる。どうやら向こうのサポータールームから中での様子を見ていたらしい。
所々に判断のミスがあったと反省点が自分の中で分かっているので、それを見られていたのだと思うとなんだか気恥ずかしい。

「日頃よく頑張ってらっしゃいますから、よく動けていましたね。」
「そんな・・・・、ありがとうございます。」

差し入れなのでどうぞ、と言われてそのままボトルのキャップを捻る。照れ隠しに少し多めに口に含めば、じわりと浸透率の高い水が身体に染み込んでいく。

「こんな感じだったら、僕も油断してられないですね。」
「でも、バーナビーさんの助言があってこそ、頑張れたんですよ?」
「それは嬉しいですね。 どこかの誰かさんは僕の言うことちっとも聞いてくれませんから。」

誰かさん、といってぷりぷり怒るフリをしていても、パートナーを信頼しているという事が、言葉の節々に滲んでいて、こちらも自然に笑ってしまう。

「・・・バーナビーさん、応援と差し入れありがとうございます。」

バーナビーさんがこんなに期待しててくれるんだったら、もっと私頑張らないとですね!なんて笑って言えば、相手は顔をなぜだか真っ赤にして怒ってしまった。

「・・・っ、貴女って人は・・・!!」
「えっ、バーナビーさん? なんで帰っちゃうんですか・・・・!!」


ミルフィーユは気難しい子


title by 21グラムの世界

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