耳が生えました 休日。いきなりの来訪者の足音に、ベッドから窓の外へと視線を移せば、やはり固有の心音通りの人物が己の家に向かって走ってくるのが見える。 「こんな朝から、調子のってんのか。ナマエの野郎・・・」 なんだかんだいいつつ、ズボンだけ穿いて玄関へと足を向ける。 内側から扉のドアノブに手をかけた瞬間に開かれた扉の先にはやはりナマエ。 「おう、朝から何のようだァ・・・?」 「えっ、あ・・・! ちょっと匿って欲しくって!!」 後ろをチラチラと気にしている彼女に何とか説明させようと、部屋の中のソファに招き、取りあえず話を手短に言うように投げかけた。 「で、トリコと喧嘩でもしたかァ?」 「まぁ・・・うん・・・今回はこれで・・・」 見た方が説明が速い、と彼女はずっと被っていたフードを外す。するとそこからは酷く柔らかそうな2つの耳がひょこりと立っていた。 「自前、か?」 手を伸ばして触ってみれば、やはり暖かく柔らかい。 「ひゅわわ・・・っ!! びっくりするからいきなり触らないでくださいよ!」 「あ"ァ・・・? 今からトリコに連絡してやったって良いんだぜ・・・?」 ニタリと冗談で笑ってみせてやれば、顔を引きつらせて首を振った。 「冗談だ。そんなビビんじゃねぇよ・・・で、その耳がナマエに生えた原因がトリコで、そんで喧嘩かァ?」 「いや、それだったら全力で殴って終わりなんだけど・・・さ・・・」 言いづらそうに視線をうろうろさせるナマエに、気の短い俺は苛つきながら舌打ちする。 「俺は気が短けぇんだ・・・わかってんだろ。」 「あ、あのですね・・・実は・・・なんかトリコに襲われそうになりましてね・・・ははは・・・」 「トリコの野郎、俺の獲物に手ェ出そうとするなんて、調子のってるにも程があるぜ・・・」 「えっと・・・ゼブラさん・・・?俺のって・・・?」 「忘れたのか、テメェ・・・この前トリコと喧嘩したときに、言ってたじゃねーか。」 「そう、だったような・・・?」 よく思い出せない、と言った顔でひとしきり記憶を廻らせているナマエ。なんとなく俺もこいつは覚えてないんだろうと言う気はしていたが、まさか本当に覚えていないとは思わなかった。まぁ方法としてはあまり褒められない事だとは分かっているのだが、俺にとっては方法でなくて結果が全てだ。恨むのなら、怒鳴ったら勝手に頷いて人の話をろくに聞かなかった己自信を恨め。 「俺は嘘は嫌いだぜェ・・・?」 「とりあえず一字一句間違えずにお願いします。全力で思い出しますので。」 「"次喧嘩したら、俺のトコ来い。一生面倒見てやる"」 「・・・あ。」 「お前、解ったって言ったよなァ・・・?」 がっしり、とソファから立ち上がろうとした体を片腕で取り押さえる。空いた片手でしっぽを弄りながら、にたりと笑う。 「え、まさか・・・?」 お前もかブルータス!とワケのわからない事を叫ぶ小五月蝿い可愛い唇に、熱烈的なキスを1つ、貪るように送ってやれば息継ぎが出来ないようで、ぱくぱくと口を開けるナマエ。 刺激が強すぎたのか、それとも俺が怖いのか。どちらだとしても、こう泣きそうな顔をされてしまっては手を出す気も失せると言うものだ。 「・・・っち、今日はこれくらいで勘弁してやらぁ!」 つくづく、俺はこいつの泣き顔に弱いと思う。 泣きむし子猫と狼 back |