ショート | ナノ
ある日のお昼頃


くっそ、台風あの野郎。

人がいつも以上に立っているホームにて、小さく悪態を付いてみる。
頬を撫でる少し強めの風が心地よいけれど、それ以上に何とも言えない気持ちが這い上がってくる。
「・・・滞在するなら、ゆっくり滞在して行けっつーの。」
そう呟いて、上を見上げれば綺麗な青空が出迎えてくれて。視界に入ってくる髪を手で押さえながら溜め息をついた。
確かに台風が来たら困る人たちがいるのは分かっている。だけれども。
「午前中はずっと台風が良かった・・・・。」
あと1時間暴風雨警報が出ていたら、授業は休みになるはずだった。そんな嬉しいサプライズは一瞬で取り消されてしまったけれど。
そう心の中で文句を言い続けていると、目の前に赤い車両が入ってきた。

仕方がない。そう思って右足を浮かせて黄色い線を乗り越えようとする。
そして扉の前で開くのを待っていると、ふと目があったのは知らない人。
ガラスは少し曇っていて、そして、電車の中はとても混雑しているのが嫌でも分かった。
「・・・・・・・・・。」
電車が混んでて、乗れなかったことにしよう。うん、それぐらいなら許してくれるはずだ。
どうせ友達は学校に来ないだろう、それに比べて私は行こうという意思があるんだからそこを評価して欲しい。     
勇気がない私を許してください。と悪びれもなく小さく呟いて、足を後ろへと進めた。
そもそも、こんな満員車両に誰が好き好んで突撃していくと言うんだろうか。そう思いながら、開いた扉を見つめる。
降りようと藻掻く人たち、ここで降りようとする人の為に親切にも一旦降りる人。そしてその傍を我先にと中へ入っていく人たち。
自分勝手、正直者が馬鹿を見る。なんて言葉が浮かんで、なんかこの世の真理を見た気がした。

「確かに仕方がないかもしれないけど・・・あーやだな・・・「ナマエ。何が仕方がねぇんだい?」うわ、マルコ先生・・・。」
振り返ると、そこにはマルコ先生。電車通勤なんだとか、どうでも良いことを思って、これまた更にどうでも良いことを聞いてみた。
「いつもこの駅から乗るんですか?」
そうだったら、私がのんきに歌を歌いながら自転車を漕いでいるという、あまり見られたくない姿を一度は見たかもしれない。
「いや、おれは2つ前の駅からだよい。」
それを聞いて安心して相づちを打つが、ふと、疑問が浮かんでくる。
「あれ・・・じゃぁなんでこの駅に居るんですか?」
「あ?・・・あー・・・人に、跳ね返されたんだよい。」
ふと思い返せば、一旦降りた人が電車に乗ろうとしたけれど、人が多すぎて跳ね返されていたことを思い出す。
「あれ、先生だったんだ。先生はすごいねぇ・・・。あんな満員電車に乗り込もうなんて勇者だよ。」
「お前は乗り込もうともしていなかったじゃねぇか。」
「え、見てたんですか。」
「当たり前だよい。」
そんな話をしながら電子掲示板を見てみると、真っ黒で。多分そうそう電車は来ないだろう。
「次の電車、何時来ると思いますか?」
「さぁねい。・・・多分まだ人は多いと思うよい。」
どうせナマエは乗らねぇんだろう?と聞かれ、私は「どうでしょうね。」と答えた。

たまには。本当にたまにだけど、こう言うときもあっても良いかもしれない。そう思いながら、もう一度空を見上げた。


風の悪魔と勇者と、時々一般市民


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