カボチャ頭の憂鬱 「・・・用があるって聞いたんですが、」 「うん、ようこそ。滝丸さん!!」 ナマエが魔女の衣装で扉を開けて出迎えてみれば、ぽかんとした顔をする滝丸さんに笑いが隠せない。滝丸の視線は、机の上やベッドの上に乱雑に放り投げられた衣装にも起因すると思われる。 「なに散らかしてるんですか・・・」 がっくりと肩を落としながら、「レディなのにはしたない」と愚痴をこぼす滝丸。 「え? 私の服じゃないから。これ。」 「へ、じゃあ一緒に暮らしてるトリコさんの・・・?」 滝丸はそういって服を一着手に取ったが、どう見てもナマエには大きく、かつトリコのものにしては異様に小さい。 「嫌ぁな、予感しかしないんですが。」 服を上から当ててみれば、案の定滝丸の服のサイズにぴったりなそれ。 「んふふ、サイズピッタリでしょ?! 愛丸さんに連絡してちょっと教えて貰ったの!」 「ちょっ、何してるんですか! 愛丸さんもなに教えてるんだ、もう・・・」 頭痛い、と頭を抱え込んでしまった滝丸くんには悪いのだが、本当に申し訳ないのだが、我が儘な四天王に付き合って頂きたい。 「で、ボク、これを着ればいいんですか?」 「あ、今散らかってる奴全部そうだから、好きなやつ選んで良いよ!」 「・・・そんなに着れません。」 「うん、じゃあそれでいいんじゃないかな。持ってるのシスターの衣装だけど大丈夫?」 その言葉に、滝丸がよくよくデザインを見てみれば、明らかに女性の着る修道院服そのもので。その事実にまた滝丸は今日何回目かになる溜息をついた。 「で、ナマエさんのオススメはどれなんですか?」 「あ、うん。 オススメはこれかな!!」 ばっと取り出した衣装は、黒色のマントとカボチャの頭。いかにもハロウィンと言った格好。あまり顔を出したくない滝丸を意識してのチョイスだったのだが、本人はすごく微妙な微笑みを返してくれた。 とりあえず、無理矢理それに決定したので、着せてあげようと服を触覚で脱がそうとしたら、女の子のような甲高い悲鳴をあげられて、扉の向こう側に強制的に阻まれてしまいました。扉越しに謝れば向こうから、少し苦笑混じりの照れた声。 「ちぇ・・・別に私は気にしてないから、良かったのに。」 「ボクは気にします!!」 照れながら言う滝丸はどこかそういう感情に無頓着な四天王と違って、ナマエの目にはとても新鮮に映る。 「ねぇ、」 「何ですか。」 「何で、私がジャック・オー・ランタンなんて選んだか、解る?」 「え、これに理由なんてあるんですか?」 「顔を全面的に隠してれば、ハロウィンをのびのび楽しめるでしょ?」 顔が大きく隠れるカボチャの被りものは邪魔にはなるが、それでも呪いだとかグルメ騎士の教えだとかを気にする滝丸が、顔を隠してのびのびと楽しめるようにというチョイスだったのだ。(ただし、ちょっと本人からは不評だったようだが。) 「え、これ衣装着るだけじゃなくて、家々廻るんですか?!」 「当たり前じゃない!ただし、家じゃなくて・・・レストランだけどね」 レストラン巡り(通称四天王のレストラン潰し)だということは、グルメ騎士の教えに背いて居るんじゃないのか、と滝丸が聞き返せば、"粗食の勧め"は勧めであって、強制じゃない!とナマエは返した。 「それに、愛丸さんも今日は愉しんでこいってさ。」 「愛丸さん・・・」 「まぁ良いじゃん!着替え終わってるみたいだし、小松くんのレストランいこっか!」 「仕方ないですね、」 扉の向こうから出てきたのは、見た目に鮮やかなカボチャの頭。行きますよ、と普段通りにエスコートする滝丸に、にっこり笑う。 * * * 「やっぱり、ボク、ちょっとこれ、今更なんですが嫌です・・・」 「えー・・・本当に今更だね、」 玄関を出た所で弱音を吐く滝丸を慰めれば、滝丸の口からとんでも無い言葉を聞いた気がして、思わず聞き返してしまう。 「え? 今ちょっと・・・聞こえなかったんだけど。」 「キスするときに、これ邪魔だなって・・・何度も言わせないで下さいよ。」 優しく頬を上げる指先を感じて瞳を閉じれば、降るのはキャンディーより甘いキス。カボチャの頭を少し持ち上げて口元だけで笑う彼はきっと、誰よりも格好いいに違いないのだ。瞳をあけて見れば、きっと照れているだろうカボチャの頭の中は自分からはみえなくて、それがちょっと悔しくなった。 パンプキンヘッドの憂鬱 back |