ショート | ナノ
混ぜたのは故意です


「さて、準備は完璧だ・・・」

あとは学習能力のないお馬鹿さんを迎え(拉致)に行くだけ。机の上に所狭しと並べられた色とりどりのお菓子に笑いが隠せない。思わず鼻に抜けるようにふふっと笑えば、キッスが窓の外で訝しげに首を傾げていた。

「待たせたね、キッス。 じゃあ、ナマエを迎えに行こうか。」

 * * *

「それで、また私、拉致られたのですか・・・」
「え? 何人聞きの悪いこと言ってるの。ボクはハロウィンパーティーに招待しただけだよ?」

にこり、とそう笑われてしまってはぐぅの音も出ない。それに鼻腔を擽るのは、甘いお菓子の美味しそうな香り。絶対に何か仕込まれている、そう思ってはいるのに、甘いものに弱い自分では唇から涎が盛れ出さないようにするのが精一杯だ。

「まぁ、食べなよ。そのために作ったんだし。」
「でも、絶対に何か仕込んでるでしょう・・・?」
「今回はボクの毒は仕込んでないよ。それにボク一人ではこの量を消化出来ないしね。」

その言葉を信用できるかと言われたら、どう考えてもNOなのだが、目の前一杯に広がるお菓子をココさんだけで食べるのは多分無理だろうから、今回ばかりは信用していいんじゃないか、と目の前のお菓子を食べたいが為の言い訳を少し。

「どのみち、ココさんの毒への耐性は結構出来てきてるので、食べても問題はなさそうですけどね。」
「へぇ、それは良かった。・・・と言うことは、今度はもっと強めでいいって事かな?」
「嫌ですよ、盛られたい訳じゃないんですから。」
「そう、それは残念。ハントする上ではかなり役に立つと思うから・・・まぁ役立ててよ。」

そういうココさんの目はどこか満足げで、同時にこの人は何がしたいんだと問いつめたくなる。問いつめたくなっただけで、実際に問いつめたりなどはしない。暇つぶし、だとか嫌がらせ、だとか言われたら立ち直れない気がするから。

「で、ハロウィンパーティーとか、どうせ口実でしょ。本題は?」
「・・・先日、ボクの誕生日だったのは知ってる?」
「・・・一応トリコさんから聞いてましたが、何か?」

その回答にココさんはより溜息を深くする。

「・・・え、もしかして、お祝いして欲しかった・・・とか?」

まさか・・・ね、と思いつつ相手にそう言ってみれば、ココの額にじわりと滲む毒。やばい、これ本当に図星だよ・・・どうしようか。知っていたという手前、知らなかったという免罪符なんて無いだろうし。いきなり攫われてしまった手前、手元には何もあげるものなんて無いに等しい。

「え、と・・・」
「あ、大丈夫、大丈夫、今更祝って欲しいとか言わないから。」

ボクも結構な歳だしね、今更誕生日がそんなに気になる程子供じゃないから。と無茶苦茶気にしながら言われても説得力はない。

「ごめんなさい・・・? あと、お誕生日おめでとうございました・・・」
「だから、別にこれが誕生日パーティーの代わりとかじゃないから。大丈夫大丈夫。」

その一言に、これきっとハロウィンパーティーじゃないぞ、誕生日パーティーや・・・!と気付いて、背中から嫌な予感を引きつれて汗が流れる。

「会いには来なくても電話はくると思ってたんだけど・・・」
「スミマセンでしたぁああああ!!!」

ひとしきり謝ってココが笑い出したところで、お菓子を口に運べば、ぴりっとした味が口の中に広がる。

「あれ、ココさん、今回毒は盛ってないって・・・」
「うん、ボクの毒は盛ってないよ。」

にっこりと笑う顔に、嫌な予感は的中した。

「トリック オア トリート ・・・って事で、悪戯させてね?」



腸に仕込んだ毒を甘いお菓子に混ぜ込んで  



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