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甘い熱帯夜


「あっつ・・・」

寝苦しさに寝返りをうつものの、己の体の上に載せられた腕が邪魔をする。その腕も、子供の体温ほどに熱い。筋肉は寝ている間も熱を酷く発しているというが、どうやらその通りらしい。

「んぅ・・・、まだ、足りねっ・・・」

身じろいだ時に彼の声が聞こえたが、明らかに寝言だと判断できたのでそのまま腕をどかそうと思ったが、あまりに重いそれはまだ半分寝ている意識下で持ち上げるには辛い。布団は律儀にトリコは蹴飛ばしてしまっている。・・・その投げ出された布団の大半は、自分の体にかけられている。要するに、熱くて仕方ないのだ。

「あつい・・・」

布団だけでも退けようとしたが、布団の上に置かれている腕が邪魔をして除ける事も出来ない。手をどかそうとすれば、より引き寄せられて抱きしめられる。体の良い抱き枕のようにされてしまった私としては面白くない、というか熱い。抱きしめられるのは嫌いではないのだが、如何せん本当に熱いのだ。

「っは・・・」

そして布団に巻き付かれたまま、抱きつかれているので息も苦しくて仕方ない。能力をつかって彼を起こしてしまうのは簡単だが、ハントでひたすら気を張って寝れていないであろう彼が安心して寝るのは家だけなので、その眠りを妨げては駄目だ、と己を叱咤する。

熱いのが、なんだ。彼はいつもそれ以上に頑張っているのに、ここで頑張れなくてどうする。こんな熱さ、一緒にハントしにいった火山の熱さに比べればどうって事ないはずだ。そう考えてみても、熱いものは熱いのだ。あと何が一番不快かといわれれば、綿菓子のベッド。ふわりとしているのは良いのだが。この熱さと汗を伴って、若干溶けている気がする。(あ、なんか、ぬちゃってした・・・)心を無心にして羊を数えれば、半分寝ていた意識がまた沈むのに時間は掛からなかった。


 * * *


朝。

いつも通り、朝の日差しと共にトリコは目が覚めた。腕の中には酷く寝苦しそうに布団に包まれて寝ている、最愛の人。

「眉間に皺、サニーだったら怒りそうだな。」

皺の位置を指で撫でてやれば、皺はすっと失せる。それと同時に見開かれる、鮮やかな瞳。

「おはよう、ナマエ。」
「あっつい・・・」

朝の挨拶を投げかけてみれば、酷く不快そうに不満を口にする彼女。こんな暑い日にそんな布団なんて被ってるお前が悪い、と言いかけてやめる。それを口にする前に彼女が不満そうに、その原因が俺だと言い切ったから。

「トリコが布団蹴飛ばして、上からホールドされたら逃げられないじゃない!」
「ああ、そりゃ悪かった。」

彼女を抱きしめて寝るようになったのは、つい最近のできごとだ。ふらふらとした彼女を止めておくのは酷く難しいような事の気がして、寝ている間でさえもどこかへ行ってしまわないかと不安で仕方ない。

「布団で息できなくて、死ぬかと思った。」

綿菓子の布団は所々汗で酷くしぼんでしまっていて、その現状に苦笑を隠せない。

「わりぃ、」
「なんかぬちゃってするし。」
「あぁ・・・(綿飴だしな)」
「・・・とりあえず。おはよう、トリコ。」

ひたすら不満を言っていた彼女は、ふわりと微笑んでそう言ったのだ。話としては全く脈絡はないのだが、如何せんそれが酷く可愛らしいと思ってしまうから重症だ。これは夏の暑さで頭が茹だっているのではなく、ただの恋の熱暴走である。

「おぅ、おはようさん。体べたついてるだろうし、後で一緒に風呂でも入るか!」
「お風呂はいいけど・・・せめて布団くらいは普通の布団にして頂戴。」


甘い熱帯夜


「俺、その布団好きだけどな。」

布団から出た彼女が、甘い砂糖の匂いをさせているなんて素敵だ。そう笑ってベッドに押し倒してしまえば、彼女は溜息をついて笑うのだ。


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