ローズダストを浮かべて ぶらりと久々に立ち寄った海軍本部に、また珍しいピンク色を見つけた。 「よぅ、おちび! 死んだと思ってたぜ。」 片手に似合わない赤い薔薇の花束を抱えて、もういっぽうの手でひらひらと手を振る男。その名を知らぬものなどは居ない七武海の中でもタチの悪さで有名な、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。 「なんで、アンタが海軍本部に居るのよ・・・」 がっくりと男にわざと落ち込んでいるように大げさにリアクションをとる。機嫌がいいときのこの男はこのくらいのノリの軽さで相手をしないと正直面倒なのだ。 「ちょっと会議でな。 ミホークの野郎じゃないが、"暇つぶし"だ。」 ちょっと物真似、と言わんばかりに声色を変えての台詞。一人で本当におめでたいというものだが、また一人で笑い出す始末。 「それで? その薔薇、またおつるさんに振られたの?」 「・・・振られてない。」 笑っていた表情をぴたりと止めて、子供のように拗ねて見せる。正直、周りから見ていてもおつるさんが相手にしていないのは明かである。それでも頑として男は聞き入れないのだ。 その根性は羨ましくもある。 「今日は、出張中だとよ。」 もうやんなっちゃう、なんてそこら辺の乙女みたいな言葉の羅列を冗談で男は並べて笑う。 「薔薇、部屋に置いていけばいいのに。」 わざわざ相手に手渡ししないと渡す意味が無い、と前も何度も聞いた。それでも、やはりこの後海に投げ捨てられるのであろう薔薇に少し同情する。男は自分の目線の先に有る花と、自分を交互に見てから薔薇を上空にいつも通り歩降り投げた。ただ、今回は薔薇が落ちたのは、青い海ではなく、同色のワンピースを着た己の腕の中。 「え、何? くれるの?」 「ナマエ、欲しいんだろ? 要らないからやる。」 花、好きだったのか? と問う男の言葉は的を外していたが、正直腕の中の花は嬉しかった。 「・・・!! ありがとう。」 「お前は俺の捨てた花を拾っただけだからな。誤解されたら困る。」 「はいはい、わかってますよ。」 別に人が誰に何を渡そうが、おつるさんは気にしないと思うけれど。口から出そうになった呟きを寸での所で奥歯でかみ砕いた。不機嫌にしたいわけじゃない。 「まぁ、お前の復活祝いって所だな!!」 「だから、死んでませんけど。」 「まぁ、同じようなもんだろ。 記憶喪失だって事はよぉ。」 フフフと笑う声はするものの、厚いサングラスの向こうは見えない。 「ありがとう、ドフラ。」 「だから、俺はなぁ・・・!!」 「わかってるよ。 "私は拾っただけ" 」 それを言うと男はずっと上のほうでフッ、と笑った。 「で、それ。何処に飾るんだ?」 「え? 飾らないよ?」 興味本位なのか、おつるさんに知られては不味いと思っているのかは定かではないが、素直にそう答えると複雑そうな顔をされる。 「最近ヒナちゃんが薔薇くれないから、どうしようかと思ってたんだよね。」 ヒナの所のフルボディとジャンゴの2人組がヒナに送った薔薇をヒナがよく横流ししてくれていたのに。最近はそれが滅多に無くなってしまって、どうしようかと悩んでいたのだ。わざわざ買ってくるほど、さして必要なものではないのだが。 「じゃぁ、その薔薇、どうするつもりだよ。」 不機嫌そうに聞く男には悪いと思うが、別に捨てる薔薇ならどう使ったって自由じゃないか。 「薔薇風呂用です、はい。」 男は多少面くらった顔をしていたが途端に笑い出す。 「お姫様かよ・・・!!」 「なっ・・・!! どう使ったって自由でしょ!! それにミホークだってやってるし!」 その最後の一言で男はさらに笑い出す。挙げ句の果てに軽い呼吸困難みたいに、ヒィヒィ言いながら笑っていた。 「まぁ、いい。 どう使おうとお前の勝手だからな。」 「全く。さんざん笑っておいてそれを言いますか。」 頭をがしがし撫でるというより、揺さぶりながら男はまた笑っていた。 「まぁ、次に海軍本部来るときには、お前用に薔薇持ってきてやるよ。」 「本当?」 「ああ、そのくらい出来ねぇ男じゃねぇ、俺を誰だと思ってやがる。」 「王下七武海、ドンキホーテ・ドフラミンゴ殿です。」 「ナマエ、お前、いい加減にしろよ?」 「海軍の兵としては間違ってないでしょ・・・。」 普通に七武海と会話出来る海軍兵なんてほぼ少数だ。例え現在の階級が一般の兵にしては上だとしても、特別にクラスが海軍に用意されている七武海とは格が違う。七武海はほぼ将校クラスと同等と海軍では見られているが故に、普通は許されない。 「馬鹿、お前は特別だろ。」 お前が敬語とか使うと、気持ち悪くて敵わない、なんて呟く男に小さな声で。 「そんな事いってるから、つけ上がるんだけどね。」 なんて、こっそり舌を出せるのも、きっと何かの特権だろう。 「今、何か言ったか?」 「気のせいでしょ。」 ローズダストを浮かべて back |