ショート | ナノ
拗ねるのも大概に


「きーっどくん!」

不機嫌そうな顔を指の腹で突けば、むにっとした弾力。あ、こいつ肌私より綺麗なんじゃないか。むにむにとつついてみれば、少しだけ口角をあげる顔。

「・・・満足か?」
「えー・・・まぁ、今日の所は?」

指を放せば彼の顔は呆ればかりで、先程の不機嫌は見あたらない。この顔も随分と私に対して失礼だと思うのだが、さっきの不機嫌な怖い顔よりかは幾分かましになったと思う。

「お前・・・「なんだ、ユースタス屋。」お前じゃない、クソファルガー。」

いい加減にしろ、なんて言いつつも2人は仲良しに見える。少なくとも私を挟んで仲良く毎日、口喧嘩が出来るくらいには仲良しだ。
「・・・俺はナマエと話してるんだ、邪魔すんな、変態隈野郎。」
「・・・なんだ、妬いてるのか?」

妬いてねぇ、なんて言いあう2人。正直仲が良すぎて私の方がローに妬きそうだ。キッドの服を掴んで意識をこちらに向けさせれば、困ったようなキッドの顔。
「・・・チッ、」
無視を決め込む、と決めたのだろうキッドがこちらに向いて座り直す。

「・・・で、俺はキラーと一緒に帰ったんだけどよォ・・・」
「また無茶してる・・・ということはその腕の傷もあれか、また喧嘩か。」

たわいない会話をしていると不意に胸に違和感。おい、キッドが構ってくれないからって私の胸を揉むな、トラファルガー。ギロりと睨み付けるようにしてキッドと逆方向を見遣れば、上機嫌に人の体を撫でつける男と目が合う。

「・・・・・・、」
べちり、と腕を無言で叩き落としてみれば、さらににやついた男の笑み。

「・・・キッドの前だと貞淑なんだな、お前。」
え、意味が分からない。
普段からピュアな私に何を言ってるんだ、こいつ。
「あ”ぁ?」
手を叩き落とした辺りから、気付いていたのだろうキッドが睨む。え、何で私もその中に入ってるんですか、キッドくん?

「・・・道理で、仲が良いわけだ。」
「・・・キッド、トラファルガーが勝手に言ってるだけだから!」

弁解するもキッドに不審な目をされるし、最悪だ。
隣ではナマエ、なんてフレンドリーさを協調して名前を呼んでくるこの男。がたり、と急に席を立ち上がるキッド。

「あぁ、邪魔したな。」
なんでそんな怖い顔してんの、初めの顔より酷い顔してる。待って、と伸ばした手はキッドの拒絶の言葉に遮られ空を掴むばかり。立ち上がった足で前に進もうとすれば、スカートを掴む腕。

「あんな奴、放って置け」その手を再度叩き落として、廊下に走って出たが既にそこにキッドの姿は見えなかった。

廊下の窓から覗けば、中庭から苛立ったような足取りで遠ざかる赤。

「おい、何処に行くんだ。 もう授業始まるぞ。」
「気分が悪いので早退します!」

廊下の窓を開けて、身を乗り出し笑いながら告げれば後ろからは溜息。出席日数、と魔法の呪文で最近は自粛していた脱走も、今回ばかりは効力なんて無いのだ。なぜなら、私の優先順位の一番は何時だって彼なのだから。

窓に片足をかけた所で親友のボニーが、上手くやれよと親指を立てて軽い鞄をこちらに投げる。それを笑顔で受け取り、大きく頷いて2階の窓から飛び降りた。流石に下のクラスからはどよめく声が聞こえたが、それに構っている時間はない。地面に着いた足からじんと痺れるような感覚を抱えながら、走る。

「キッド!!」
後ろを振り返ってくれないので、その背中に向かって足を走らせるしかない。足を速めて歩いているのだろうキッドに全速前進。ぼふっと抱きつけば、彼の腕は体と体を引き離すように押し退けた。

「出席日数、やばいんだろ?」

ぎらついたような瞳は拒否を示していたが、ここで引き下がる私ではない。というかここまで来たらもうそんな選択肢なんて無いのだ。さっき窓から降りたときに聞こえたのはきっと始業のチャイムだろう。どのみちもう間に合わないのだから、そんなのはどうだって良い。

「大丈夫。まだ8日残ってるから。」
「・・・家、逆だろうが」「ついて行くつもりなんだけどなぁ?」

にこりと笑えば諦めた顔して、茶も菓子もださねぇぞなんて・・・こいつ本当に可愛い。ニヤニヤしてしまいそうな口を押さえて、お構いなくなんて言えば複雑な顔をされた。

「馬鹿だろ、」
「違いない。」

彼の親友の口調で合いの手を入れると双方から零れる笑み。

「キーッド、くん」
むにっ、襲撃したのは先程とは反対側の頬。

「うぜえ。」
「そんな顔しないでよ、傷つくでしょうが。」
「・・・トラファルガー、置いていっていいのか?」
「良いよ、邪魔されたくないし。」

それよりキラーに伝えずに帰っちゃって良いの、と聞けば悪い顔で、後でメールしておくから問題無いとのこと。

「・・・と言うことは、ふたりっきりだねー!」
「・・・五月蝿ェ。」

ふてくされたような口調でも、しっかり見えてしまった赤い耳。こういう所が好きなんだけれども、まだ勿体ないから教えてあげるつもりは毛頭ない。
単純な所も、短気なところも全部ひっくるめてキッドですから。

貴方の全てを愛してる

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