零れた宝物 「おはようございまーす。」 「・・・・・・。」 ここで働いてきて、最近分かったことがある。 「こーんにちはー。」 「・・・・・・。」 私、オウムとか絶対飼えない。 何を言っても返事を返してくれない、いや、返すことのできない斬島さんを見てそう思った。(そのかわりすごいニコニコしているけど。) 「斬島さん・・・まだ、声でないんですか・・・。」 「・・・。」 「声帯がまだ治ってないんですかね・・・あれ、でも。こっちの人って体の治り、早いんじゃないんでしたか?」 「っ・・・。」 「あ!私の言い方も駄目でしたけど、ダメですよ、無理して出したら!」 最近斬島さんに会っていなかったのだが、どうやら彼は声が出なくなってしまったらしい。 きっと声帯をやられたのだと思うのだけれど。 「目玉といい、声帯といい・・・治るからって、体を大事にしないのは良くないと思うんですがね。」 「?」 ここ一週間ほど、彼に会う機会があるのだけが、未だに声が治っていない。 そこまで酷いやられ方をしたのかと思うと、何もされていない自分が痛くなってくるのだから不思議だ。 ・・・まぁそんなことを言っても、ここの人たちは分かってくれないだろうから、内緒なのだけれど。 「まぁ・・・その、早く治るといいですね。喉。」 「・・・・・・。」 毎回こうやって話しかけているのだけれど、声が返ってこないというのは本当に寂しい。 いつも淡々とだが返事を返してくれる斬島さんに戻ってくれれば、と思いながら笑いかける。 「まだお仕事、ありますよね?すみませんね、邪魔しちゃったみたいで。」 「・・・ぁ・・・。」 「?斬島さん?」 自分も仕事に戻ろうと思い、彼に背を向けたあと。 声が聞こえた気がして振り返ろうとした瞬間、かすかだけれど、ありがとうと聞こえたきがした。 零れた宝物 「き、斬島さん、声!・・・ってあれ?」 そう言って周りを見ても、さっきまでいた斬島さんは何処にもいなくて、私は首を傾げる。 ・・・だけどまぁ、斬島さんのことだからさっさと仕事に行ってしまったのだろう、そう思うことにした。 (ただいま。) (今帰った。) (あ、お帰りなさい。佐疫さんに・・・え、斬島さん!?) (俺がどうかしたのか。) (え、だってさっきまで声出てなかったのに、そんなすらすらと声出てるなんて・・・。) (・・・ちょっと待ってよ。斬島と一緒にいたけど、声はずっと出てたよ?) (あれ?でもさっき斬島さんと私、会ってましたよ・・・え、あれ?) (・・・また俺が出て来たのか・・・厄介だな。) (え、ごめんなさい。何言ってるのかわかんない、です。) back |