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砂糖菓子の言訳


ただなんとなく、彼に似合いそうだなと思ったから。それだけの理由で、ここまで行動できた自分に吃驚していたりする。

「はい、お土産。」
「え・・・何、これ。」
「いやだから、お土産。帰りにお店寄ったから。」

そう言って、加州君の手の上に小さな紙袋を置く。「中身見てもいい?」と聞かれたので、「どうぞ。」と返事をする。とりあえず、嫌がられなければいいんだけどな。と思いながら、彼の反応を見ることにした。


審神者の集会のようなものに参加したとき、加州君をたまに見かける。・・・と言っても、他の審神者の所の子なのだけれど。近衛として付き添っている彼らを見ていると、うちの加州君に対して申し訳なってくる。他の審神者の子の爪とか髪飾りとか、その他いろいろ。ネイルアートとか付け爪とか・・・彼らは何だ、女子か。と考えてしまうほどで。女子力高い審神者の所は、加州君のお洒落に対する熱が半端ないと思う。ちなみに最近知り合いになった審神者さんの所の子も、ネイルアートがすごかった。あそこの審神者さん、男性なんだが・・・。あれ、おかしいな。

まぁ途中話は逸れたが、そういう事で、たまには加州君に何かあげるのもいいんじゃないか。と、何も考えず衝動買いしてしまったそれに対し、どうでもいい言い訳をして、現在に至る。

「・・・・・・。」
「・・・あー、えっと。」

袋を開けてころりと彼の掌に転がったのは、私が買ってきたピアス。
この女子力が高い彼のお眼鏡にかなうかは、不明。むしろ自信なんてこれっぽっちもない。じっとピアスを見ている加州君の顔はあまり見えないし、顔をあげる気配もない。あーだめだ。これは気に入らなかった感じだぞ。

「かしゅう、くん。えーっとその、だね。気に入らなかったら、私に返却してくれてもいいんだよ?」
「・・・え?」
「一緒に出掛けて、加州君が気に入ったのを買って・・・って、え。」

その言葉でやっと顔をあげてくれた加州君をみて、驚いた。
ちょ・・・目に涙溜まってるんだが!そんなに!?そんなに気に入らなかった!?

「わわわ・・・!!ご、ごめんね、センス悪いんだ私!とりあえず、ほら、ハンカチ!!ほら!!」

慌ててハンカチを引っ掴んで、彼の目元に寄せる。そうしていると、ふと加州君の声が小さく聞こえた気がして、私は急いで彼の方に耳を寄せる。

「これ・・・俺にくれるの?いいの?」
「いや、君に似合うかなぁって思って買ったんだけど・・・って何で、なんで泣くの!?」

そんなに嫌だったか・・・!と自分のあまりのセンスの無さに茫然としていると、小さく首を横に振られる。

「俺、あんたにすごく愛されてたんだなぁって・・・嬉しくって。」
「・・・そんな風に思われるくらい、私はあれか、君を不安にさせてた、ってことか・・・。」

まじか。これでも、みんな大好きなんだが・・・これは審神者をやってく自信がなくなったぞ。少し、いやかなり凹みながらそう呟くと、上からぎゅっと抱きしめられる。

「やばい、嬉しい。・・・ありがと、主。」
「うん、こちらこそありがとう・・・は良いんだけどさ。私、もう少し皆と触れ合った方が良いってことだよね?」
「いーよ、別に。あんたはそのまんまで居てよ。」
「そういうもん、かな。」
「そーそー。」

そんな事よりさ、今度どっか買い物行こうよ。・・・あ、ほかの奴等も一緒に連れてこうだなんて思わないでよ?と、機嫌の良い声でそう言われ、私は「分かった」と返事をする。

とりあえずその時はいつもよりも少し、きちんとした格好で行こう。まだ離れない体に苦笑し、頭の上で聞こえる嬉しそうな声を聞きながら、そう思った。


砂糖菓子の言訳


後日、彼の耳元には私のあげた飾りが控えめに揺れていた。


(最近、あいつが嬉しそうにあれ、付けてるんだけど。・・・あげたの?)
(あー、うん。あれね・・・毎回つけてくれるからさ、何かこっちも嬉しくなるよね。)
(そうなの?)
(うん。何というか、自分のプレゼントを彼女が付けてるのを見た、彼氏の気分がわかった気がする。)
(え。)
(・・・あ、そうだ。安定君にこれ。似合うと思ってさ。)
(なにこれ・・・髪紐?良いの?)
(どうぞー。あ、気に入らないなら良いよ、無理しなくて!・・・って、付けるの速いね。)
(うん、良い感じ。ねぇ・・・これ、似合ってる?)
(似合うと思って買ったのに、似合わないなんて言うと思う?)
(そうだね、それもそうか。主、ありがとう。大事にするよ。)

そしてこの後、修羅場の渦中にいる彼氏の気分を味わうことになるだなんて、思いもしなかった。

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