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一人の日常


獄卒。亡者を狩る亡者。

数えられる年月もとうに過ぎ、人の世では幾度目か分からぬ年月を何度も再生しながら生きる幽鬼。彼らは同じ軍服を纏いながらも、中身はそれぞれ個性的であるとだれもがいうほどてんでバラバラ。それでもなんとかこれまで繰り返し、違反を犯した魂の回収をこなして来たのだから地獄からの評価は一応高く保たれていた。

「・・・報告を、ナマエ。」

上司の助角が参考の書類に目を配りながらこちらに声を投げる。中にあるのは現世に逃げ出した女の資料。逃げ場と思われる場所の囲い込みに後輩の谷裂を、追い込みに木舌を既に放ってある。そんなに今回は難しい案件ではなさそうなのでふたりで大丈夫だろう。

「いつもと特別変わったことは無いので、今回も予定としては半日で終了の予定です。」
「そうか、変化があればまた報告するように。」

頭を下げて退出しようとすれば、佐疫がティーセットをもって部屋に入ってくるのが見えた。

「え、お茶持ってきましたが、飲んでいかれませんか?」
「・・・仕事中だ。」

佐疫はそれに苦笑して、進んだ助角さんの机の上にコーヒーカップを一つ置いた。

「それは、残念です。」
「・・・この狐が。」
「・・・・・・?」

ぎろり、と睨む俺の目を水色の穏やかな目が見つめる。まるでなにもわからない、といわんばかりの目の奥にある嘲笑を見つけてまた俺は唇の裏を薄く噛み締めた。

「・・・どうかされましたか?」
「否、失礼する。」

入室より幾分か粗暴になった足取りでドアをあけ、外に出てみれば廊下に座り込む平腹の姿と横に佇む田噛の姿が見えた。

「何してるんだお前ら。」

返答を平腹に求めてみたのだが、返事が無い。田噛は多少それに思うところもあるようで、片足で軽く平腹の背を蹴ったが、相変わらずの男はへらへらとした笑みをこちらへ返すだけに留まった。

「・・・報告、ダリぃ。」

遅れて口をこれまたダルそうに開いた田噛はすこしばつの悪そうな顔をして、また平腹を蹴った。あまりやりすぎると・・・と言おうと思って、やめた。平腹と組んでいる田噛は俺以上に平腹の手綱の握り方を知っているのだから、あえて俺から言う必要性は無いだろう。

「そうか。」

帽子の上からくしゃりと田噛の頭をなでてやれば、目ではこちらを睨みながらもほんのり赤く耳が染まる。こいつのこういうところが新卒のころから可愛くてどうしようもない。機嫌よく撫で続ければふるりと震えた背に、振り払われる己の手。

「ッ・・・!!」
「悪い、悪い。 報告、頑張れよ。」
「オレも、オレもー!!頭!!」
「はいはい、田噛を怒らせるなよー。」

強請られたのでとりあえず平腹の頭もついでに撫でておく。

「・・・ナマエさんはこれから任務ですか?」
「あァ、いや、俺は直接任務には出ないよ。」
「どうして?」
「俺の相棒が任務にはほとんど出てこないから。」

扉の向こうにちらりと目をやってみたが、扉に遮られて目当ての男の顔は案の定見えるはずも無い。

「それに、俺の相棒はひとりでも十分強いから。」

俺はいらない子なんだよねー、と拗ねたようになってしまった言葉に苦笑する。頭の悪い平腹は首を傾げたが、田噛はそれを聞いて舌打ちをした。

「それをいうなら、ナマエさんも十分強い。」
「お前らよりはな。」
「・・・・・・チッ。」
「ははは、ひっでー!!」

平腹が大声を上げたせいで、扉の向こうの綺麗な顔したいけ好かない男に色々とばれてしまったようだし、さぼりだと相棒に怒鳴られないようにさっさと自分も執務に戻るとしよう。これ以上こいつらの報告を遅れさせるのも悪い。

「・・・さァて、俺もお仕事しますか。」


一人の日常   


その後、木舌の任務失敗により悪化した霊の始末をつけるため、助角のお気に入りの斬島を後任とし、補佐として司令塔を除く獄卒全員の投入を行った。結果として斬島が霊を捕獲、彼女の現世での境遇について罪状は情状酌量の余地ありとなり、しばらく罪を償った後、現世への輪廻へ戻る事が決定した。任務を失敗した木舌は始末書の提出、禁酒一ヶ月を言い渡され、指示をしていた俺も報告書と現場の修復作業に追われる事になった。

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