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お前の後ろにお化けがいるぞ


『俺、実はお化けが見えるんだ。』

目立ちたがりな少年が学生のときに、そんな事を言い出さなければ、多分もっと穏やかな毎日だったのだろう。彼に危害が加わらないなら、と好きにさせていたのだが、どうしてこうなったのか分からない。いつのまにやら心霊少年だとかテレビの取材を受けるまでに有名になった少年は変に好かれる能力を使い、夏の風物詩とよばれるまでにテレビに引っ張りだこになってしまった。所謂有名人というやつだ。悪い霊に憑かれる事もあるだろうと、俺はずっと彼に付き添い続けた。

「・・・ナマエ、」
「ん?」

実は俺は知っているんだ。お前が本当に幽霊なんて見えていない事。おまえは確かに特異な霊媒体質というものであることは間違いないのは知っている。だが、それは霊を寄せるとか、霊に好かれやすいというものだけで、特にお前自身に霊能力があるわけでないことも知っている。なぜなら、俺は本当にそういうものを見る事ができるから、ナマエの目の前で起こる不可思議な心霊現象について本当の説明をする事ができるからだ。

「お前の後ろにお化けがいるぞ。」

テレビの前でよく目の前の男が口にする言葉を同じように男に向けて吐く。男の肩には確かに俺をどこかあざ笑うかのように見る、子供の霊が乗っている。その顔はどことなく目の前の男と酷似していた。昔、ナマエが双子の兄を喪ったと聞いているから、もしかするとその兄なのかもしれない。

撮影の待合室にて、ナマエに付き添っていれば、がちゃりとテレビのスタッフが出番ですよ、と声をかけながら部屋に入ってくる。撮影現場まで笑いながら下らないが本当のやりとりを重ねれば、ナマエの肩に乗る子供はさもその会話を面白そうに目を細めて笑った。

『さて、今日もゲストとしてこの番組を騒がせてくれるのは、霊能力少年ナマエさん!!』

心霊番組とは思えない軽快さで紡がれるMCの声と、ほの暗いスポットライト。ステージがよく見えるパイプ椅子に座って、いつも通りに彼が嘘を真実にする瞬間をその目に映すのが俺の仕事。彼の仕事を邪魔する霊共に睨みを利かせながら、カードに手を伸ばす。

「皇帝の正位置」

いくら占っても彼を示すのはこのカード。見えてもいない霊を意識的に操る、あの少年こそ帝王。祓屋などが見たら顔をしかめそうな事を知らずにやってのける男に今日も俺はうすく笑みをこぼす。見入られたのは、己もなのかもしれない。

『あそこの隅に女の霊が見えます。』

隅に、と指を指したとたんに弾ける火花。隠し事などなにひとつない心霊現象が彼の番組では必ず起きる。トリックもネタも無い。すべて目の前で起きているのは真実なのだ。そこに霊がいるのは間違いない。

『ああ、驚かせてしまったみたいで・・・すみません。』

弾けたライトの光に、驚きながら苦笑するナマエと、ライトの傍でくすくすと笑う少女。どこかでナマエがつれてきて、その後でそのまま彼に憑いてきてしまった悪戯好きの少女が、私に気づいて笑う。”内緒ね”なんて、俺に言わなくても良いだろうに。

いつかインチキだ、と彼を笑う人が現れたとして、それを嘘だという人が現れたとして、それに傷ついたナマエがその力を恨む事があるのなら。その眩い玉座が崩れ落ちた暁には。




「その時には、俺が連れて行こう。」

愛している、と呟く唇から溢れる音は、生者であるナマエには届かなかった。


初めからゼロだけが存在していた

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