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ほろよいカシスオレンジ


コトリコトリと音を鳴らしながら、お目当ての部屋を覗こうとするとガラスのこすれる音がした。誰かが居るということが分かったので、部屋に入ると、肋角さんと探していた人がいた。

「・・・居た。」
「ん、あれ名前。どうかした?書類違ってた?」
「あーいえいえ、不備なかったですよ。大丈夫です。」
「なんだ、まだ木舌に渡してなかったのか。」
「?何を?」
「今日はバレンタインですからね、チョコレートでもと思いまして。」

そう言いながら木舌さんたちに近づく。そしてふと肋角さんの方を見ると、手には酒瓶。

「肋角さんがお仕事中にお酒を飲むなんて、珍しいですね。」
「違う。木舌のだ。」
「ああ・・・禁酒中ですか。」
「あの時は飲酒してないって言ったんだけど、肋角さんが聞いてくれないんだよ。」

あの時、というのはあの目玉が抉られた事件のことを言っているのだろう。でも正直な話、「うっかり油断して返り討ちにあったんだよ。まさか目玉を抉られるなんてね。」とか、「あの時は何も見えないし、仕事にならないしでホント困ったんだよね、ははははは!」とか言われてしまったら、流石の肋角さんも怒ると思う。言っている内容は大変なことのはずなのに、何でそんな軽いんだと私も思ってしまったぐらいだ。(しかも笑っていた)苦笑いをしながら二人を見ると、肋角さんが口を開いた。

「まぁ罰というのもあるが、こいつには休肝日も必要だろう。・・・と言った傍から酒に手を伸ばすな、飲兵衛が。」

べしんと木舌さんの手をお酒の瓶から叩き落として、がちゃりとドアを開ける肋角さん。

「しばらくここに酒を持ってくるんじゃないぞ。」
「仕事終わりの一杯が・・・。」
「そういうのは仕事場で飲むものじゃないだろ。」

そう最後に言って、肋角さんは出ていった。(そういえばあの没収されたお酒はどうするんだろう・・・)ちらりと木舌さんの方を見れば、いつもよりも顔にかかる影が濃い気がする。

「・・・木舌さん。」
「ん、何だい?」
「チョコレートなんですけど・・・皆さんには内緒ですよ。」

そう言って、彼の口にチョコレートを押し付けた。


ほろよいカシスオレンジ   


急に押し付けたせいか、少し驚いていたみたいだったけれど。そのすぐ後に、分かりやすいぐらい笑顔になるもんだから、私は少し笑ってしまった。

(おいしいね、これ!酒が入ってるし!!)
(気に入っていただけたようで良かったです。というか、やっぱりお酒メインですか。)
(そんなことないよ。チョコだって美味しい。)
(そういって頂けたなら、作った甲斐がありますね。)
(あ、これ名前が作ったの?美味しいよ、ありがとう。また頼むよ!)
(・・・え、それってつまり、通常日にでもいいからまた作れって事ですか・・・?)
(頼んだよ!)
(・・・・・・はーい。)

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