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渦巻くホットチョコレート


目の前に箱をずいと差し出せば、困惑そうな目が箱と私を行ったり来たりしている。その様子を見て、私は苦笑してしまう。

「気軽に貰ってやってくださいな。それ、義理ですから。」
「・・・・・・。」

真面目だなぁなんて思いながら、そう補足を伝えると、そろそろと箱に手が伸びてくる。

「ありがとう、3倍で返す。」
「・・・君ってホントに真面目だね・・・。」
「?」
「別に3倍じゃなくてもいいですよ。私が好きで渡してるだけですから、そこまで気にしなくても。」
「そういうものか?」
「はい、そういうものなんです。」

皆さんに渡していて思ったのだが、獄卒さんごとにそれぞれ違う反応を見せるので、面白い。・・・なんて言ったら怒られそうなので、言わないでおくけど。思わず笑ってしまいそうになるのをこらえて、斬島さんの方を向いて頭を軽く下げる。

「それじゃあ、私はこれで。」
「仕事はどうしたんだ。」
「肋角さんに、もうあがっていいと言われてますから。」
「そうか。」

そう淡々と会話をした後、彼は仕事へ、私はどうしても見つけられなかった人たちを探しに歩き始めた。と思ったのだけれど。

「えっと、あの。」
「?」
「いや『?』じゃなくてですね、なんで引き留められてるんですか。」
「・・・今から他の奴らに、渡しに行くのか?」
「ええ、まぁ。後は田噛さんと、木舌さんと・・・平腹さんですかね。」
「平腹か・・・。わかった。」

え、何が分かったんですか。と尋ねようとした瞬間、引っ張られる腕。

「え?」
「あいつは厄介だ。」
「それは知ってますよ、流石に。」

毎回あの人には苦労させられているものだから、彼の言葉に頷いた。あの人と二人きりで会わないように裏で画策しているのはみんなには秘密である。

「付き添う。」
「いやお仕事あるんですよね?私なら大丈夫ですよ、たぶん・・・。」

申し出は本当にありがたいのだが、時間がかかるしと断っておく。最悪、箱を遠くにぶん投げる、『ポチ、とって来い!』戦法で何とかするしかない。そう思っていると、斬島さんの眉間に皺が薄く寄り、さらに私の腕は引っ張られた。

「俺の事は気にするな。良いから行くぞ。」
「え?あ・・・ありがとうございます・・・?」

これ以上否定するのはよろしくないだろう。そう思ってお礼の言葉を述べれば、斬島さんは笑ってくれたような気がした。


渦巻くホットチョコレート   




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