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チョコレートの吐息


2月、といったら、高校生な男子も女子もはしゃぐイベントがある。言わずもがなそれはバレンタインというもので、例にもれず、私も友達から貰えるのをとても期待している。

それなのに、だ。

「の、野崎君・・・?」
「佐倉、俺は・・・俺はもうだめかもしれない!!」
「・・・・・・・・・。」

バレンタイン前だというのに、なんであの一角だけ悲惨な雰囲気が漂っているんだろうか。


「くそ・・・!!あいつがあそこであんなことを言わなければ、念願のバレンタインになったというのに・・・!!」
「ま、まぁまぁ。野崎君、一旦落ち着こう、ね?」

そう言って野崎君を宥めていれば、小さく「前野ぉ・・・。」と呟くのがきこえた。ああ、またあの人がらみなんだなって嫌でも理解してしまう。

「あー・・・前野さん、今回は何したの?」
「打ち合わせの時に出くわして、『今年はバレンタインで行くんですかー?』って、言われてな・・・。」
「えーっと、去年はそのせいで豆まきにしたんだっけ。」
「今年こそはと思っていたのに・・・あの、前野の奴!!」

そう言って突っ伏してしまった野崎君に、私は苦笑することしか出来なかった。周りはバレンタイン前ということもあってかすごく浮かれているのに(まぁ私もなんだけど)私と野崎君のところだけ暗い雰囲気が漂っている気がする。で、でも逆転を発送させるのよ、佐倉千代!ある意味野崎君と今、二人にしか分からない秘密の話をしてるんだ!!
なんて小さくガッツポーズをしていると、ふと目が合った。

「え、あ・・・名前・・・。」
「あー、お取込み中、ごめん?」

私が彼女の名前を言うと、苦笑いして返事を返してくれた。
どうしよう、私の行動ちょっと変だったよね!?うわ・・・恥ずかしい。


「ごめん、すごく気になって・・・ずっと見てた。」
「あー、やっぱり目立つ?」
「うんかなり。ここだけかなり重たい雰囲気だったから。」
「そっかー・・・だよねー。」

千代ちゃんの質問にきちんと返答していると、彼女の顔は恥ずかしさのためか、若干赤くなっている。
女子力が高い女の子はこういう反応するんだなーと感じたし、自分にはこんな所無いよなぁ・・・と改めて思ってしまう。そして「それで、彼はなんでこんな沈んでるの?」と聞こうとした瞬間、話題の主役になりかけていた人の頭が急に起きだした。

「よし、名前!!」
「うわっ!吃驚した!!・・・というか、何が『よし』なんだい!!」

余りの勢いに、千代ちゃんと一緒にひるんでしまうが、我に返って突っ込みを入れる。しかし目の前の男はというと、そんな私の突っ込みをものともしないで、口を動かしている。

「バレンタイン以外で2月のイベントってあるか!?あ、豆まき以外で頼む!!」
「野崎君!それを今さっき来た名前に聞いちゃう!?」
「あーっと、何かいまいち話が見えないんだけど・・・じゃぁ恵方巻とかどうよ。」
「え、そんなさらりと答えれるの!?」
「なるほど!助かった、ありがとう!!」

そう私が答えた瞬間、彼は先程までと打って変わって意気揚々とし始める。

「・・・ん、何か解決したっぽい?」

そう聞いてみると、二人は無言でコクコクと頷いてくれた。
何だかよく分からなかったけれど・・・。

「まぁ、二人がいつも通りならそれでいいや。」


終わり良ければ総て良し?   


月刊の2月号が発売された後、ある少女漫画が恵方巻の話だったというのを友達から聞いた。
普通この時期だったら、バレンタインネタで来そうなものなのに・・・斜め上の思考回路の持ち主なんだな。と思ってしまう私がいた。

(助かった、今回も乗り切ったぞ・・・!!そうだな、今度から前野のせいでネタがなくなった時は、名前に聞こう。そうしよう。)
(え、野崎君。それはちょっと名前が・・・。)
(うん?・・・ああ、そうか。佐倉は名前から勝手にネタを提供してもらうのはいけないと言いたいんだな。)
(さ、流石野崎君!!良く分かってる!)
(そうだな・・・なら、名前を『ネタ構成かつ前野対策担当』に抜擢しよう。)
(ちょ・・・野崎君、なにそれ!!??そんな担当聞いたことないよ!?)
(俺が今決めた。じゃぁ、勧誘してくる。)
(え、いやいや・・・って、待って!野崎君待ってってば!!!)

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