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流れる車窓から


私が整備と点検をしている傍らで、私の様子を見るシンゲンさん。

「・・・・・・あの。」
「何?」
「すごくやりずらいです。」
「見テルダケダヨ?」
「シンゲンさん・・・貴方もう一両後で挑戦者を待つんじゃなかったでしたっけ?」

そう振り向いて言ってみれば、だって暇なんだもん。と返されてしまう。まぁ確かに・・・と呟きながら、今日の挑戦者たちの流れを思い出す。今日の挑戦者は大抵この人の前で脱落しているのだ。

「バトル狂からしてみたら、苦痛なんですかね。」
「バトル狂ジャ無イ!駅員!」
「・・・ここの駅員が『廃人』って呼ばれているの、知ってます?」

そう言ってみれば、案の定「まだ人を辞めてない!!」と返されてしまった。確かにこの人はバトルよりも、電車が好きだと言っていたから、まだ廃人さんじゃないのかもしれない。


その後も、全然くる気配を見せない挑戦者に愛想が尽きたのか、シンゲンさんは座席に寝転がり始めた。

「ちょ・・・私が仕事をしている傍で、そんなことをしてもいいと思っているんですか・・・!?」
「ダッテ暇ナンダ。」
「シンゲンさんの大好きな電車に寝転がっているんですよ!?良いんですか!?」
「・・・?好キナ電車ノ中デ ノンビリ出来ルッテ幸セダヨ?」
「あぁ・・・そうですね、そうですよね。」

自分で言ってて、このセリフは効果いまひとつだってわかってましたよ、ええ。でも私一人だけ働いているのって、何だか釈然としないってことを分かってほしいんですが。そんな事を言いたかったのだけれど、溜息一つ吐き出してその場をしのいだ。


暫くしても、彼のインカムには『準備してくれ』みたいな連絡は来ていないようで。今この車両で動いているのと言えば、環状線をぐるぐる回り続けている電車と、手を動かしている私ぐらいだ。背を向けているから分からないけれど、彼はきっと寝ころんだままだろう。物音が一切しない。それに少しの不安を覚えた私は、ある意味静かなこの空間を壊そうと口を開いた。

「・・・あの、シンゲンさん?」

そう言って振り向けば、目をパッチリ開けているシンゲンさんがいた。

「ナマエドウカシタノ?」
「いえ・・・すごい静かだったので、寝ているのかと思いました。」
「今仕事シテルンダカラ 流石二 寝ナイヨ。」
「何でだろう、今すごく異議を突っ込みたくなりました。」

そう言った後、私は立ち上がって背伸びを一つ。それをじっと見ていたシンゲンさんが、口を開いた。

「点検 終ワッタ?」
「はい、ここの車両はですけどね。次は2つ隣の車両に行こうかと。」

空調機はバトルの際に何か異物がはいる可能性が高いので、激しいバトルの後とかは必ず点検している。・・・・・・泣きを見るのは私たちだからね・・・。この前はヘドロが沢山付着してて大変だったなぁ・・・だなんて、昔の出来事に思いをはせていると、ごそごそと動く音が。

「あれ、シンゲンさん。やっと動く気になったんですか。」
「ウン。」

そうですか、それは良かったですね。と言いながらこの車両を後にしようとすると、後ろからシンゲンさんがとことこ着いてくる。

「持ち場に戻るんですか?」
「イヤ、ナマエ ノ 所二 行コウカト思ッテ。」
「へ?」

そう言ってきちんと彼の顔を見てみればニコニコと笑っていて。しかも、良いでしょ?だなんて言われてしまったら、Noと言えるはずもなく。

「呼ばれたらちゃんと仕事しに行ってくださいね。」

としか言う事が出来なかった。


流れる車窓から


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